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マンガ家Mの日常
作家で言えば 高村薫は改稿を繰り返すので有名だったりする。
編集者も驚く程、ストーリーまで変えちゃったりするのだとか。

マンガの場合、単行本化する際の加筆補正は
雑誌掲載時からのヴァージョンアップとしてウリになるので
以前は歓迎されていた。
 
ところが今はデジタル化に伴っての費用の問題で、
極力加筆補正をしないよう 言い渡されている。

雑誌掲載時に100%完成された物を提供するのが正しいという考え方もある。
だけども、雑誌と単行本で 版形も印刷も編集も 何もかも違うのだから
単行本用の改稿はあってしかるべきだと言える。
...、まぁ、一番気になるのは
わずかならず手が届かず、納得いく出来でない部分を修正する事なんだけど。

「ポー・ド・ルルスの娘」の場合特に、
前述のネームの問題で進行がキツく、後半十分な描き込みができていない。
これはなんとしても手を入れなければならない。
加えて、ストーリーの難しさを懸念したMさんが
第1回のネームについて大幅に独自の変更を入れておられる。

Mさんは勿論、当時事前に私に変更内容を伝えて下さっていたのだが、
次のネームで頭がいっぱいだったのと、
「難しい言葉を書き換えました。」という話だったので、
それならば構わないだろうと思い、
私はちゃんとチェックせずに通してしまった。

ところが、印刷された物を改めて見てみると、
ネームの内容そのものが変えられてしまっていた。
元の内容とズレがある、これはマズい。
この部分は改稿しない訳にはいかない。

相応の経費をかけて良い作品を送り出した方が
後々の良い結果に繋がると、私は思うのだけど、
会社の現状がそれを受け入れない。
 
結局「ポー・ド・ルルスの娘」の再発行は再び見送られた。

Mさんは質実剛健という言葉をそのまま体現されたような、
仕事熱心で頼りになる方で、私も何度も助けられた恩義を感じてる。
でも、この時の打ち合わせはすり合わせのしようがなかった。

Mさんの話からは、マンガ家への誠実な対応が感じられる。
でも、デジコミの印税の配分に関して、
「我々(出版社)も米代くらいいただいて。」と言われた時。
出版社の人は白い米が食べられても、マンガ家は借金抱えて死ぬしかない、
と、止むに止まれぬ反発を覚えてしまった。

さて、話は前後するけれど、
この段階ではYさんが私の担当の筈で、
担当替えの話は何も聞かされていない。
MさんとYさんとの間で どういうやり取りが交わされているかもわからない。
編集部の様子がよくわからない。

その後、Mさんからの連絡はない。

続く。
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原稿料ゼロではとても仕事はできない、
そうYさんに伝えた後、連絡は途絶えました。
会社としては交渉の余地もなかったんだろうね。

それから何ヶ月経ったか、
最初の担当だったMさんから電話があり、
デジコミについて話をしたいとの事で、後日待ち合わせをしました。

以前「ホラーM」で描いた他の作品についても
デジコミで配信したいとのお申し出でした。
有り原(ありげん:既に描かれた原稿の事)であれば
原稿料が再度発生するものでもないし
(本当だったら2次使用料があっても良い筈なんだけど。)
作品が場を変えて改めて読者の目に触れるのは
作者にとっても喜ばしい事なので、異存ありませんでした。

候補として挙げられたのが、「キアラ」の少し前に短期連載された
「ポー・ド・ルルスの娘」という作品。

この作品についても また別に記事を書ければと思いますが、
とりあえずここで簡単にご説明します。

ストーリーは現代物ですが、
歴史を背景にした絵画ミステリーで、
「キアラ」を気に入って下さった方には こちらもお勧めです。
連載前の打ち合わせの時、全体の具体的なストーリーは出来上がっていて
それをMさんにお見せしたのですが、
ストーリーを描ききるのに必要と思われる
半分のページしかもらえませんでした。
Mさんとしては、単行本1冊にまとめたいとの事で、
マンガ家の立場としては それ以上の決定権もないので、
その枠組でなんとか描く事にしました。

最初から最後まで既に構築されたミステリーなので、
話を半分に切る訳にもゆかず、
2倍3倍の内容を納める為、毎回ネームで 計り知れぬ苦労がありました。

話を詰め込めば 年少の読者には当然わかりづらくなる。
連載中はなかなか人気が上がりませんでした。
雑誌自体が読み切り中心で、
読者が連載を読む事に慣れていなかった点もあったかもしれません。

単行本1冊にまとめるから、という話だったから
こちらとしても 無理して話を詰めていたのですが、
結局単行本にはしてもらえませんでした。

その作品を描かせてもらえた点については感謝しているものの、
非常に不完全で悔いの残る作業を強いられた点については
作家としては納得のいきかねるものがあります。

今回改めて「ポー・ド・ルルスの娘」がデジコミの候補に挙がったのは
デジコミの読者がまとまった長さのある作品を求めているからだそうです。
...、だったら、それこそ、何でページを削らせた。
そりゃあ 当時はまだデジコミは念頭になかった。
でも、いつの時代でも、まずクオリティの高い作品作りが重要な筈。
そこさえしっかりしておけば 時代の変化に慌てる事もない。
なんでそこを考えてくれないんだろう。

編集者は作家と違うからね。
会社から目の前の結果を求められる。

デジコミにするのは良いとして、
やはり相応の加筆補正が必要と思われたので、そう伝えたところ、
「元のゲラ刷りからデジタル化したい。
 経費がかかるので 加筆補正は受け入れられない。」
との 返事でした。

続く。

少し間が空くと どこまで書いたか忘れそうになります。
モチベーションも上がったり下がったりで、お待たせしております。

「デジコミの原稿料は出ない。」
...、そうYさんから伝えられてしまいました、電話1本で。

今思えば、何故そうなったのか、理由を説明してもらうべきでしたが、
聞いたところで曖昧な話しか聞かされなかったでしょう。
上からそう指示があったとかなんとか...。

お金が出ない理由なんて、どこでも同じ。
お金がないから。

デジコミの仕組みとか経費とかがどうなってるのか、
正確なところはマンガ家には知らせてもらえません。
マンガ家が一番弱い存在で、一番取り分を削られてるから、
さすがにそれは言いにくかろう。
紙媒体からデジタルに替わって、手続きが簡略化されると思いきや、
逆により複雑になって、中間業者が増えて、
出版社でコントロールできなくなってるみたい。

Yさんとしても、デジコミでやっていけるという算段はあったんだろう。
でも、会社の収支決算がそれを許さなかった。
会社はまず会社の利益を最優先させる。
そりゃあ、会社がしっかりしてくれないと 
マンガ家も仕事できなくなるから 大事な事なんだけど、
それで出た結論が「原稿料なし。」って...。

マンガ1作描くにはそれなりの経費がかかる。
紙1枚、鉛筆1本だって、誰も只ではくれない。
画材、参考資料、PCやコピー機の月々の使用料、
定期的に量産するとなると アシスタント代も大金が必要になる。
今もかなり切り詰めて、無理を重ねてやってきているのだから、
もう経費を切り詰めるのも限界。

経費切り詰めてなんとかやったところで、
じゃあ月々の生活費はどうなるの?
水は近所の公園から汲んで来れる。
でも、まず電気とガスは止められる。
マンションの管理費だって滞納が続けば裁判沙汰になる。
おっと、食料はどうする。
公園の葉っぱをむしって、あとは鳩でも捕まえるか?

生きていけない。

既に配信されている「キアラ」についてだって
私の手元にはまだ1円も入って来ていないのに、
これから新作を描いて いつだかわからない頃に配信されて、
その更に1年後に10%程度の配信料が入るのを待ってはいられない。
だいたい、これも正当な報酬と言えるのか?
多分全体の10%程度だろうとは見込まれるけど、
取引の経緯を知らされないから、
どこがどれだけ持って行ってるかわからない。

それに、出版社に入って来た金額のうち70%は出版社が取る。
...、なんだか腑に落ちない。
デジコミ配信について、各社がそれなりの経費と労働力を使っているから
各社がそれなりの代金を受け取るのは 当然の事なんだけど、
で、なんでそのしわ寄せが 全部マンガ家のとこにだけ来るの?
マンガって、只でできるものだとでも思ってる?

結局のところ、ぶんか社の事業計画に問題があったとしか言えない。
 
それにしても、
マンガ家全員に「原稿料ゼロ」って言ってるんだろうか。
いくらなんでも そうは思えないんだけど。
フツーにプロとして活動してるマンガ家さんが
そんな条件を呑むとは思えない。
一方で、デジコミだって、主力作家がいなければ売れやしない。
一部のマンガ家には原稿料支払われてるんだと思うんだけどな。

新人作家のところへは、そのまんま
原稿料ゼロでの原稿依頼があったんだって。
でもその新人さんだってためらってた。
当然だよね。

デジコミの読者の方からは「内容が薄い。」との意見もあったとか。

こんな状態では早晩デジコミの「ホラーM」も潰れる。
出版社はそれでも良いと考えてるのかもしれない。
手持ちの原稿でいくらか稼げれば良いだけなのかも。

そうして「キアラ」は連載再開、完結の目処もないまま
1、2巻分が配信され続け、
購入してくれた読者の期待を裏切り続けている...。

続く。

「ホラーM」の廃刊が近づいた頃、
Tさんから担当の引き継ぎがありました。
Yさんという方で、デジコミについては今後窓口になっていただきます。

「ホラーM」廃刊後も1、2ヶ月の間はまだTさんも会社に残っていて、
場合によってはその後も フリーランスの編集者として
ぶんか社の仕事をされるかもしれない という話でした。
Tさんは「キアラ」についても気に留めていて下さっていて、
廃刊決定直後から「連載をまだ諦めてはいない。」と話しておられました。

TさんYさんとの顔合わせの際、
Yさんからデジコミとしての「ホラーM」についての話があり、
ほぼ態勢が整ったので、「キアラ」の連載も再開できそうだ、との事でした。
デジコミの印税支払いは遅いし
それだけではマンガ家の収益として足りないので、
マンガ家が心配なく描けるよう、先に通常の原稿料が支払われる
という話もあり、
デジコミを見ない私としては 幾ばくかの不安はあったものの
もうじき再開できそうな、良い流れが感じられました。

Tさんが担当を継続する事についても かなり可能性がありそうでした。
連載途中で担当が替わるのはよくある事なので、
他の方に替わったとしても それなりにやっていくつもりでしたが、
内容の打ち合わせ等もしていた事もあって、
Tさんが継続されるなら それがやはりありがたかったです。

その後「ホラーM」の最終号が出て、
雑誌の後半部分にデジコミへの移行について記されていましたが、
少しわかりにくく、慣れた読者の方でも 最初気付かなかったようでした。
廃刊については 出版社側はとにかくその言葉を避けたがる。
利益の様々な側面を考えるとそうなるのでしょうが、
廃刊は廃刊として 読者にはっきりとわかるように伝えなければ、
読者は雑誌に対しての信頼感をなくしてしまうのではないでしょうか。
なんだか目線がズレている。

HQの仕事にかかっていて 暫く忙しくしていた間、
連載再開については そのうちYさんとの打ち合わせがあるだろう、と
なんとなくのんびりとした頭で待っていました。

そして或る日Yさんからの電話を受けたらば...。

「デジコミの原稿料は出ない。」
...、という、とんでもない事態が告げられたのでした。

ガク然。

続く。



途中ですが お伝えしておかねば、と思う事があります。

連載中断やデジタル配信の問題について書くと、
どうしても会社に対して 批判的な内容になってしまいます。
 
でも、これはあくまで状況の説明であって、
誰かを批判する事が目的ではありませんし、そうしたくもありません。

実際、私が知る限りでは
「ホラーM」の編集さんは大変仕事熱心で誠実な方々でした。
そうした部分についても 日を改めてお伝えできたらと思います。
また、「キアラ」やその他の作品についても、
「ホラーM」という雑誌と編集さんの存在があったからこそ
実現がかなった物であります。
ひとりのマンガ家として 大変感謝しています。

このブログを何人の方が見て下さっているのか わかりませんが、
一人の方でも誤解などされる事のないよう
気をつけて進めて参ります。