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マンガ家Mの日常
或る日 会社から支払い明細書が届きました。
デジタル配信の印税となっていて、
多分これが前に話に出ていたヤツのなんだろうなって思って、
気に留める事もなく そのままにしていました。

その後、Tさんから「キアラ」のデジタル配信について話がありました。
契約書を見せてもらったところ、私が一番問題だと感じていた部分が訂正され、
「トラブルについては出版社とマンガ家が協議の上誠実に対処する。」
といった形になっていたので、これであれば理解できると思い、
契約を受ける事にしました。

それで、さて、契約書を見てみると、
「キアラ」1巻に「17年目の女王」という読み切り作品が
同じ書面に書かれてありました。
前にデジタル配信を勧められていた3本の読み切りのうちの1本で、
何故これを「キアラ」の契約書にくっつけてくるのか、
ちょっと不思議な気はしましたが、
今更断って契約書を作り直させる程の事でもないので
そのまま契約を締結しました。

「キアラ」1巻に続き、2巻もデジタル配信が決まりました。

着メロとかも似たような感じなんだと思うんだけど、
普通の本のマンガだったら 1作掲載毎に原稿料が支払われるところ、
デジタルの場合は 配信6ヶ月分の印税をまとめて支払われる形になってる。
1ヶ月分の印税が小額だったりする事があるからなんでしょう。

マンガ家には出版社経由で支払われるのですが、
会社によって支払い期日にバラツキがあって、
或る程度規模の大きい会社だと 集計から2ヶ月内くらいなんだけど、
ぶんか社の場合は集計の6ヶ月後になってる。
正直もうどれがどれの支払いだかわからなくなる。

また、配信を始める時期についても、
HQだとコミックスの発売とほぼ同時期なんだけど、
ぶんか社の方では「配信会社次第で、いつになるかわからない。」
との事でした。
「キアラ」についても、いつ、どこの会社から配信されたのか、
一切連絡をもらってない。

それからいくらも経たないうちに デジタル配信の明細が届いた。
作品のタイトルを見たら、「17年目の女王」になってる。
そんな筈はない!
ぶんか社のケースだと、支払いは配信が始まって1年後になる。
でも、契約書取り交わしてからまだいくらも経ってない。

さすがに私もわかってきた。
最初の何だかわからん明細書は「17年目の女王」のだったんだ。
会社は私に断り無くデジタル配信しちゃってたから、
そこを取り繕う為に「キアラ」にむりやり「17年目」をくっつけたんだ。

何でちゃんと言わないんだろう。
多分私が怒るから。
そりゃ怒るよ。
でもさ、ミスした事自体よりも、ミスをごまかそうとされた方が嫌じゃない?
その方が信頼関係に入る傷が大きいよね。

きっと今はもっとしっかりしてると思うんだけど、
1、2年前のぶんか社のデジタル配信はそんな状況でした。

続く。


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「ホラーM」では数年前からコミックのデジタル配信を始めていました。
特にチェックしてはいなかったので、どういう状況だったかはわかりません。

或る日の仕事中、デジタルの話題になった時、
アシスタントに来てくれていた方から、
私の作品も「ホラーM」のデジコミに出ていると聞かされました。
その時は、雑誌がデジタル配信されているなら、
連載中の作品が出ているんだろう程度に考えていたのですが、
そうではなかった事が 後になってわかりました。

暫くしてから、前に掲載された読み切り作品を3本まとめて
デジコミ配信したいという申し出が会社からあって、
契約書を渡されました。
作品がより広い範囲の読者の目に触れるのですから、
デジコミそのものには異論は全くありません。

ところが、契約書が目を覆いたくなる程酷かった!
マンガ家が他人の著作権を侵害した場合について
何項目にも渡って書かれてあって、
まるで泥棒呼ばわり。
更に、出版社と配信会社は マンガ家に無断で作品を作り替える事ができ、
挙げ句に、作品を見た第三者が何らかの攻撃をして来た場合、
マンガ家だけで対処する事、
「出版社、配信会社には迷惑をかけるな。」とまで書かれてあったのでした。

勝手に作品を作り替えて、危険は全部マンガ家におっ被せるって、
どういう事っ?!

契約書は常に強い者の味方で、これまでもそれを承知でやって来ましたが、
今回のはさすがに酷過ぎる。
あまり気にせずに 割り切って受ける方もおられると思いますが、
それをしたら、私は自分の身を守れなくなる。
契約書について改正点を挙げて Tさんに伝えました。

でも、会社側は一切応じるつもりがなかったみたい。
どうやら他のマンガ家さん達はそのまま受け入れているらしく、
私のだけ変える訳にいかないんだって。

ずっと後になってから話を聞いたところでは、
出版社とプロのマンガ家との信頼関係で成り立っているマンガの世界と違って
デジタルの方はまだ無法地帯的だもので、
配信会社が特にキツい内容の契約書を作って来ているのだとか。

だとしても、マンガ家は配信会社とではなく 出版社と契約を結ぶのだから、
出版社がきちんとした契約書を作成すれば それで良い話の筈。
それを何でサボるんだろう。

結局、元のままの契約書では危険なので、
デジタル配信はお断りしました。

ところが、実は会社では既に私に無断で(勿論契約書もなしで)
コミックのデジタル配信をしていたのです。
それが冒頭で書いた事の裏事情でした。

続く。

有り体に言ってしまえば、部数減少による廃刊です。

ホラーとミステリー(「ホラーM」のMはミステリーのMなのよ。)
という限定されたジャンルで、流行による浮き沈みがあるのか、
近年の出版不況のせいか、
最盛期の10分の1まで部数が落ち込んでいたそうです。
それと、その少し前に「ホラーM」から枝分かれする形で
「トカゲ」という新雑誌が作られて、
そちらに人気作家を多数引っ張られたのも 痛手だったようです。
上の人達が何故そのような無理な企画を進めたのか 計りかねますが。
...雑誌を廃刊にしたくて、その前フリだったのかもね。

何年か前からデジタル配信を行っていて、そちらは続行されるので
完全な廃刊という訳ではありません。
とは言え、デジタルに関しては法の整備も万全ではありませんし、
出版社もまだ暗中模索状態で、
事業として確立されているとはとても言えません。
問題点については後述します。

「キアラ」2巻の後書き原稿などを出して、
今後の連載についての 打ち合わせの連絡を待っていたのですが、
年が明けてからも なかなかTさんから連絡は来ませんでした。
私も前年からハーレクインのお仕事を始めさせていただいており、
そちらの原稿が上がるまでは「キアラ」にはかかれないので、
特にTさんにせっついて電話するような事もせずにいました。

そうしたら或る日、Tさんが「キアラ」の単行本の契約書を持参された際に
(契約書は原稿の受け渡し前に取り交わすべきものなんだけど、
 マンガの現場って、イージーな口約束で成り立ってるのね。)
掲載誌「ホラーM」の廃刊が決まった事を 玄関口で切り出して来たのです。
 
雑誌の廃刊(読者向けには休刊とかって書くけど、再開したためしがない。)
は、或る日突然マンガ家に告げられる。
どこの出版社でもやる事おんなじ。
「次の号で休刊です。」
「えっ、連載、まだ途中なんですけど、続きはどうすればいいんですか?」
「うちでは何もできません。」
「読者の為にって、編集さん日頃から言ってらしたじゃないですか。
 途中でほったらかしにするのは それまで読んでくれていた読者に対する
 裏切りじゃありませんか。」
「(無言)」
だいたいいつでも皆こんな具合。

現場の編集者もマンガ家と似たり寄ったりの直前になって
上から知らされるそうだけど、
会社の中にいれば、薄々察知してはいただろうと思われる。
どうなんだろう。

マンガ家に直前まで知らせないのも、
動揺して描けなくなると良くないから、なんて言われるけど、
そんなのは情報流出を防ぐ為の便法でしかない。
迷惑至極。

いくらかでも早めに知らせてくれれば
連載をなんとか終わる形に持って行くとか、
その後の仕事先を探すとか、色々策を講じられるんだけど、
マンガ家にそれをさせてくれない。
雑誌廃刊でマンガ家が或る日突然無職になって 収入ゼロになって
家賃も電気代も払えなくなったって、出版社の関知するところではない。

会社が社員をリストラする時には
何ヶ月前までに宣告するとか、保証金支払うとか、
何らかのルールがある筈なんだけど、
マンガ家にはそういうのは一切ない。
フリーランスだからって言っても、良識は見せて欲しい。

Tさんは当時「ホラーM」の編集を一手にまかされていながら
まだ契約社員で、
以前会社から正社員としての契約の打診があった際に
ちゃんと受諾の意志を示していたものの、
その話はいつの間にか断ち消えとなり、
業務縮小で近々契約終了であると言い渡されていて、
Tさん自身も先が見えない状況でした。

続く。

キアラへのご声援 ありがとうございます。

いつ頃、どういった形で書くか 迷っていたのですが、
作者の責任として、現在連載が中断されている事情について
まず先にご説明します。

第1作目は読み切りとして描かれたものでしたが、
当時の担当Mさんがシリーズ化を勧めて下さって、
私としても楽しく描けた作品でしたので
様子見しながら続けさせてもらう事となりました。
3作目以降は若手のTさんの担当で進めて行きました。

話がやや難しい事もあって、最初のうちは
それほどアンケートも良くはなかったらしいのですが、
回を重ねるに連れて 読者の方も付いて来てくれるようになり、
Tさんにも「キアラに愛着が感じられるようになって来た。」
と、言っていただけました。

正直なところを言えば、修復を題材に謎解きを作るのは
私個人の限られた知識では難しく、
何年もの長期に渡って連載を続けるのは厳しいかな、
というのは ありました。
でも、好きなテーマで、キャラクターも気に入っていたので、
状況が許す限りは続けていこうと、
資料を集めたり 専門書をめくったりと 奮闘しておりました。

10作目のあたりでTさんから提案がなされました。
読者の傾向として、恋愛要素のある作品が欲しい、との事でした。
一度シリーズに区切りを付けて、キアラを15歳くらいまで成長させて
恋愛ドラマを加味するようにしましょう、という話になりました。
私としては チビデブのキアラが好きだったので、
変更はどんなものかな、と思わないでもなかったのですが、
作品には時として 変化や裏切りも必要なので、
Tさんの提案に沿った挑戦に向けて動く事にしました。

区切りを付けて少し連載に間を明ける為、
3回分の短期集中連載的な作品を作る事となって、
それがミケランジェロの出て来るシリーズです。
Tさんとはその後の展開についても 少しずつ打ち合わせを進めていました。

連載の先行きは明るいように見えました。

ところが、
当時 私はやや深刻な病気を抱えていて、手術入院を検討していました。
それで、「キアラ」の区切りの所で入院の日程を決めました。
休みを取るタイミングとしては良かったようです。
2週間の入院の後、体力が低下していたので
1、2ヶ月休んで、体調が万全になってから
あらためて連載についての打ち合わせを、と考えていました。

でも、ぶんか社と「ホラーM」の状況は
担当編集者のTさんでさえ 思いもよらぬ方向へ向かっていたのでした。

この項、続く。