19世紀末のダブリンが舞台の映画。
アルバートはホテルのウェイターとして真面目に働いているが、
実は女性だと言う事を隠し続けて生きて来た。
私生児として生まれ、10代の頃に養母と死別、
身寄りが無くなり、ひとりで生きて行かなければならなくなったが、
女性が満足な稼ぎを得る仕事を見つけるのも難しい時代で、
数人の男性にレイプされる等の悲惨な状況にもあった為、
男性に身をやつしてウェイターの仕事を得て働いて来た。
チップをコツコツと貯めて、
近い将来店を買い取ってタバコ店を開業しようと考えている。
ホテルの塗装の仕事で来たヒューバートと知り合いになるが、
実はヒューバートも、自分が女性である事を隠して生きて来ていた。
しかしヒューバートには女性の伴侶がいて、幸せな結婚生活を送っている。
アルバートは独立を控えて、結婚生活を思い描くようになった。
ホテルの下働きの若いヘレンに気持ちが傾くが、
ヘレンには既にイケメンの彼氏ジョーがいて、
ジョーはヘレンに、アルバートから贅沢品や金をむしり取るよう指図する。
しかし、ヘレンはジョーの子供を身ごもり、
アメリカに行きたいジョーはヘレンを置き去りにしようとしている。
アルバートはそのケンカに巻き込まれて、ジョーに突き飛ばされ、
廊下の壁に頭を強打し、翌日、ベッドの中で眠ったまま亡くなる。
亡骸を見た医師がアルバートが女性であった事を知り、
それはやがて街の新聞にも掲載されて、世の知るところとなる。
「何故こんな哀れな人生を選んだのか。」医師はつぶやく。
ホテルのオーナーのマダムは、アルバートが床下に隠していた貯金を見つけ、
ひとりじめしてホテルの改修費用に充てる。
一方、ヒューバートはその年、街に猛威を振るったチフスで妻を亡くす。
ジョーに去られて、シングルマザーになってしまったヘレンと
再出発を始めようとしている。
先日見た「ピアニスト」では、男性優位社会で男性化してしまう姿が
ひとつのテーマとして描かれていたのだけど、
今作では、生きる為に男性にならなければならなかった悲劇。
アルバートはじっと孤独に耐えて来たが、
似たような境遇でも、ヒューバートは良い伴侶に恵まれて幸せな生活を掴んだ。
この違いは何処から来るのだろうか。
偶然の成り行きもあっただろうし、個人の性質だとも言える。
でも、アルバートを誰が責められるだろうか。
ヒューバートが自分の本心に従って生きる事をアルバートに勧めて、
ふたりはヒューバートの亡き妻が作ったドレスを着て海岸を散歩する。
アルバートは最初はオドオドしながらも、次第に心が解放される。
本質は女性でありたい。
しかし、ドレスが足に絡まって、転んでしまう。
もはや女性として生きる事は出来なくなってしまったのだろうか。
もっと若い頃に心を開いて、女性の姿を取り戻す事は出来なかったのだろうかと
つい思ってしまうのだけど、
シングルマザーになってしまったヘレンの姿を見ても、
この時代に女性がひとりで生きて行く事が如何に困難だったかわかる。
ましてや、アルバートは私生児と言う生い立ちを背負っていた。
最期までアルバートの、女性としての名前は明かされない。