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マンガ家Mの日常
原作候補として渡された作品でしたが、
残念ながら、創作の反面教師としてご紹介させていただきます。

ペーパーバックの発行が1983年となっていて、
30年も前の作品では仕方無い部分もあったかもしれないけど、
それでも、問題点が大きかった。

舞台はスペインのとある島。
その島の古くからの領主一家のサルド家。
息子のリックは戦争に行って、爆弾の破片が頭に刺さって失明して帰って来た。
悲嘆にくれる日々を救ったのは、子供時代一緒に暮らしていたアンジー。
アンジーは孤児で、一時期サルド家に引き取られて暮らしていて、
年長のリックに心惹かれていた。
独立して看護師となって、リックのリハビリの為に再訪した。

ハーレクインのパターンのひとつの看護師もの。
それは良いんだけど...。

リックは志願して戦争に行った。
戦地では下級兵士の多くが命を落とした。
貴族の身分で上級将校だったリックは、命を落とすまでは至らずに生還出来たし、
帰宅してからだって、立派な邸宅で使用人に囲まれて贅沢な暮らしをしている。
それなのに、自分の失明を悲観してやたら厭世的になって、周囲に八つ当たり。
「自分には将来が無い、死にたい。」とこぼすばかり。

確かに、失明は厳しい問題だけど、
志願して戦地に行ったのなら、死んだり負傷したりは覚悟の上だし、
ましてや、亡くなった部下も大勢いるのに、
その部下達ではなく、自分を哀れんでばかりいるのが、マジでうっとおしい。
こんな男、ちっとも良いとは思えない。
アンジーにとっては子供の頃の憧れの人だったんだろうけど、
そんな、子供の頃の記憶だけじゃね。

で、前半、散々リックのグチを聞かされた後、
アンジーの指導でリハビリスタート。
えっ...?
ついさっきまで、リハビリなんてする気も無いってほざいてたのに。
ハーレクイン的にはアンジーの愛の力ってとこなんだろうけど、只唐突なだけ。
リックが何故リハビリをする気になったか、そこが何も書かれていない。


小説やマンガというのは、読者が登場人物に感情移入して読み進める。
登場人物が様々な出来事に接し、人との関わり合いを持つ中で、
心が動かされ、次の段階へ進む、それがドラマ作りのベース。
「感動」っていうのは、心が動かされる様子の事。
心が動かされるプロセスが重要。
読者は登場人物に共感する事で感動を追体験する。


この場合、アンジーの言動の何かが、リックの心を動かして
あれ程拒んでいたリハビリをするように心変わりする、そのプロセスが話の肝。
なのに、それが何も無い。

ハーレクイン小説にありがちなんだけど、
原作者はお約束のハッピーエンドに既に目が向いていて、
そこに到達する為のプロセスを理解していない。
ドラマ作りとしては、そこが一番作者の力量を求められる難しい所だから、
そこを無視してしまっている。

これでは、感動出来ないし、展開も訳がわからない。
「奇跡の人」で、あの有名な水の場面抜きで話を進めるようなもの。

リックには実の妹のマヤがいて、
タイトルに「兄妹」ってある割には妹の存在感が弱い。
マヤはイケメンミュージシャンとの恋愛に溺れているかと思えば、
すぐ次のイケメンに鞍替え。あらあら。
リックは脳内に残った爆弾の破片が近い将来自分に死をもたらすであろう為、
アンジーとの関係に躊躇っていたが、
そんな感情的なマヤに影響されて、アンジーに愛を告白。
めでたしめでたし。

30年前の作品だから仕様が無い面もあるんだけど、
この脳内の破片の影響について、医学的な見地からの著述が全く無いのは
現在の作品としては取り扱いづらい。
失明のリハビリや精神的ケアに関しても同様。

医療に関して、生半可な知識で描けば、
患者さんや医療関係者の方々に迷惑がかかる。
また、問題無いと思われたような事でも、
圧力団体からの抗議が来たりする場合も多々ある。
マンガの編集部ではそれが怖いから病気がテーマの作品をを避けたがる。
現時点では問題が無くても、後年状況が変わって問題視され、
再販が出来なくなってしまう場合も多々ある。
何らかの使命感を持って構想を練って、
下調べを徹底的にやってから臨むオリジナル作品ならまだしも、
原作を渡されて、こうしたリスクをマンガ家ひとりで負う事は出来ない。

リハビリや医療に関して、こっちで勉強して
全部フォローしなければならないのでは、とてもやりきれない。
全体の流れを見た時に、
それだけの労力を費やす価値がある原作とも思われなかった。

恋愛は、現実の恋愛であっても、
理由無く相手に惹かれてしまう事も多い。
むしろ、それが恋愛ってもんかもしれない。
でも、そこから愛情を育むのには様々なプロセスがある。
そのプロセスを無視した作品等は、もはや作品とは言えない。

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