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マンガ家Mの日常
巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督作「ベニスに死す」のタジオ役で
世界中に美貌を知られるビョルン・アンドレセンの半生を綴った
ドキュメンタリー映画。

宣伝予告等では、ヴィスコンティや他の映画関係者からの
性的搾取がクローズアップされており、
昨年の日本での旧ジャニーズ事務所の問題もあって、
他人事ながら悲しくて、手をつける気になれずにいた。

実際にこうして観てみると、性的搾取に関する言及は僅かで、
それよりも、家庭環境に焦点が当てられている。


母親は戦後の自由主義の影響を強く受けて、ボヘミアン暮らし。
婚外子として生まれたビョルンの父親もわからない。
妹は別の男性の子供。(こちらは身元は確かな要。)
ビョルン10歳の時に失踪し、自殺。
祖母に引き取られたが、経済的に苦しく、
祖母はビョルンを子役スターにして稼ごうと試みる。
母親はその美貌でモデルの仕事もしていたそうなので、
芸能界に目を向ける素地はあったのかもしれない。

ヴィスコンティ監督は「ベニスに死す」のタジオ役の少年を探し求めて、
3年間欧州中を回ってオーディションを行っていた。
数千人の候補者の中から15歳のビョルンが監督の目に止まり、大抜擢となる。

一躍大スターとなり、キャンペーンで世界中を連れ回されるが、
16歳になる頃には「成長し過ぎた」として、
ヴィスコンティはビョルンへの関心が薄れ、取り巻き達に差し出してしまう。
その後も、映画の支援者という男性がビョルンをパリに連れて行くなどするが、
映画俳優への道には繋がらず、性的搾取がトラウマとなる。

ただし、この部分は映画の中では薄ぼんやりとしか描かれておらず、
時間的にもあまり大きく割かれていない。

むしろ、社会的に未熟な少年がこうした難局に身を置かされた時に、
助けとなる筈の保護者、父親、母親といった存在がいなかった事が
問題点としてクローズアップされているように見える。
(例えば「レオン」のナタリー・ポートマンは、性的な演出を課されていたが、
 母親が断固として反対し、脚本を修正させた。)

ビョルンは演劇学校に入学し、俳優としての道を進むも、大成しない。

パートナーを得て、娘と息子を授かるが、
生まれて間もない息子が乳幼児突然死症候群で亡くなると、
精神的な不安定さが以前にも増して、アルコールに溺れ、結婚生活は破綻。
ビョルン自身、父親というロールモデルを持たなかった事が、
破綻を招く要因でもあった。

2019年発表のホラー映画「ミッドサマー」に出演し、
改めて世界の注目を集めた。


ヴィスコンティ監督の名作群を愛しているけれど、彼の貴族趣味の同性愛が、
ビョルンやヘルムート・バーガーらの人生を狂わせたのを知らされるのは
何とも苦い思いにかられる。
身近にサポートしてくれる人がいれば、
アラン・ドロンのように長く映画界で活躍出来たかもしれなかったのに。

ビョルンはあまりにも「タジオ」のイメージが浸透し過ぎた。

映画史に刻まれる傑作にその姿を残したという偉業を見つめるべきか、
それはただ2時間の映画でしかなく、
ビョルンの長い人生を苦悩の道に追いやったと見るか。

今作を見ると、
やはりビョルンの視線の先には、亡き母の姿があるように思える。



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