ジャズ・トランペット奏者チェット・ベイカーの伝記映画。
名前は何となく聞き覚えはあるけど、
演奏や人となりについては全く知識が無かった。
伝説的サックス奏者チャーリー・パーカーに認められ、1950年代に活躍。
しかし、同時に麻薬の悪癖も教わり、中毒になって身を滅ぼしてしまう。
当時のジャズマンの典型。
売人に襲撃されて、前歯を折られ、顎を砕かれ、
トランペッターとして絶望の淵に立たされるも、恋人ジェーンの支えもあって、
苦しみの中ひたすら練習を続け、復活を果たす。
メジャーとして認められる、再起の大舞台として、
名門ジャズクラブ「バードランド」の出演が決定したが、
帝王マイルス・デイヴィスやディジー・ガレスピーらからのプレッシャーを受け、
出演直前に気持ちを高揚させるべく、再びヘロインに手を出してしまう。
ステージは成功するが、ジェーンはチェットの元を去る。
その後、演奏で活躍しながらも、ドラッグ依存が治る事は無かった。
主演のイーサン・ホークが、演奏に向けるひたむきさと、
一方で、ドラッグの誘惑を断ち切れない負け犬感をジワジワと漂わせている。
ストーリー展開に大きな変化は無く、淡々と進む。
ジャズの音色と、60年代アメリカの景色の色合いの中で演奏する姿が美しい。
トランペッターの命とも言える前歯を無くし、
演奏の度に口に指を突っ込んで、出来の良くない入れ歯の位置を直す様子が、
見ていて痛々しい。
恋人ジェーンは実在せず、映画のオリジナルとの事。
女性にモテる人だったから、そういう女性がいても不思議では無かっただろうけど、
要するに、音楽、ドラッグ、パートナー、
チェットの価値観はそういう順番で決まっていて、
演奏の為には恋人よりもドラッグが優先されたという、
人物像を描き出す象徴としての映画的創作なのね。
イーサン・ホーク自身が歌う「マイ・ファニー・バレンタイン」は
美しくも物悲しく、鬼気迫る感がある。
この時代の本格ジャズって、良いなぁ、と再認識させられる。