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マンガ家Mの日常
「カラーパープル」での感動の押し付けがましさにうんざりして以降、
スピルバーグ監督の映画は評価していない。
今回、録画したものをスピルバーグ作品と知らずに見ていた。

作品全体としては、トム・ハンクスの好演もあって、爽やかな感動があった。
とは言え、中盤でのあまりにもあからさまなシーンの繋ぎや、
ラスト近くの感動的な筈のシーンでも今少し胸に迫るものが足りなかったので、
どうした事かな、と思いつつ、
エンドロールでスピルバーグの名前を見つけて納得がいった。

あくまで、万人ウケする為に、分かり易い演出にしているのね。
それは大事な事である反面、映画の趣を削いでしまってもいる。
同じ企画で、クリント・イーストウッド監督だったら、分かり易さを損なわず、
背中から抱きしめるような深みのある演出をしてくれただろうに。


実話を基にした映画。

1957年、東西冷戦の緊張感がピークになる頃、
米ソではそれぞれ、スパイの摘発が盛んに行われていた。
ソ連から送り込まれたベテランスパイのアベルがFBIによって拘束された。
違法滞在の外国人スパイで、有罪、死刑は確実と見られていたが、
アメリカの司法制度の公正さを内外に印象付けるべく、
有能な弁護士ドノヴァンがアベルの弁護を担当させられる事となった。

自宅を狙撃される等、国民から冷たい批判の目を浴びながらも、
ドノヴァンはアベルの弁護に全力を尽くす。
陪審員裁判によってアベルには有罪判決が下されたが、
ドノヴァンは判事にアベルの身柄の重要性を伝え、死刑を免れる。

アメリカではU2偵察機によるソ連の情報収集が画策されていた。
若い軍人のパワーズが任務に就いたが、ソ連領土上空で爆撃され、捕虜となる。
アベルが捕虜の交換要員として役立つ時が来た。
同時期、アメリカ人学生プライヤーが東ベルリンで身柄拘束された。
アメリカ政府はプライヤー解放を含めた2対1の取引を求め、
ドノヴァンに交渉役を任命する。

水面下の交渉で、ドノヴァンは民間人としての立場で現地に向かわねばならず、
劣悪な環境で、交渉も綱渡りとなったが、見事に難局を乗り切る。
グリーニッケ橋の上で人質交換がなされた。
アベルはソ連に戻っても、情報漏洩の嫌疑をかけられれば処刑される可能性もある。
後ろ姿を見送るドノヴァン。

後日、人質交渉の件が公表され、ドノヴァンは一転英雄となる。
その後も政府から人質交換交渉を依頼され、
数多くのアメリカ人の命を救う事に貢献した。
ソ連に帰国したアベルは家族と無事に暮らしている。


「スプラッシュ」や「ビッグ」等、若い頃のトム・ハンクスは
可愛い容姿がウリのチャラいお兄ちゃんのイメージだったけれど、
本当に良い年齢の重ね方をして来た。
知的でウイットに富んでチャーミング。
アメリカの正義を過不足なく体現している。

若い兵士の身柄を助けるという点では、
同じトム・ハンクス主演作の「プラーベート・ライアン」を思い起こしてしまった。
アメリカ政府はパワーズを取り戻すのに必死だけれど、
それは軍人として持つ情報の漏洩を危惧しての事で、
ただの民間人の学生でしかないプライヤーには関心が薄い。
今作のテーマとは関係無いけど、
政府が巨額の予算を投じて助けるたったひとつの命もあれば、
僅かな手当ても受けられずに死んでいく幼い命が無数にある事に、
世の中の不条理を覚える。

淡々として、任務に忠実なアベルを演じたマーク・ライランスが光る。
今作でアカデミー賞助演男優賞に輝いた。
まあね、最近のアカデミー賞って、こういう地味な役所に賞をあげるの好きだよね。

ドノヴァンの長女を演じたイヴ・ヒューソンは、U2のBONOの実娘。
U2偵察機にちなんでの出演って訳でも無かろうけど。
出番は少ないけど、エンドロールでも名前はしっかりクローズアップされている。
BONOの娘となったら、七光りはIMALUちゃんどころの騒ぎでは無い。
本人も大変だろうけどね。

Wikiで見ると、自宅狙撃事件等、
人々からドノヴァンへの直接的な攻撃は無かったらしい。
誤解を招く演出ではあるけど、映画としては仕方無かったのかな。
それもまた、スピルバーグ的な分かり易さの所以か。


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