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マンガ家Mの日常
名作。
こういう良い映画を見ると、沢木耕太郎みたいに
詩情豊かな映画評が書けたらなって思う。

ラストシーンについても書くから、
これから見るのを楽しみにしている人は 読むのをここでストップして。

くたびれきった中年女性。
15歳と5歳の男の子の母親なんだけど、
夫はギャンブル依存症で、お金持って蒸発しちゃった。
古くなった家を買い替えるつもりで 業者に手付けを払ってたのに、
残りの支払い分のお金を夫が持ってっちゃったもんで、
新しい家は取り上げられ、期限までに残金払えなきゃ手付金も取られちゃう。
(家ってのが トレーラーハウスじゃないんだけど
 大型トラックで家ごと運んで設置するみたいなの。)
彼女は1$ショップで真面目に働いてるんだけど、
いつまでたってもパート待遇で 昇給も何も無い。
お金が無くてどうにもならん。
子供の朝食にポップコーン出すしかない。
でも、学校での昼食代は小銭かき集めてでも持たせてやる。
自分はひとりでバスルームで泣くしかない。

夫を探しに出た時に モホーク族の女性と出会って、
成り行きで 密入国者の運び屋の手伝いをやらされてしまう。
ところが思いのほかいいお金になったもんで、
家の代金が支払えるとこまで稼ごうと、二度三度と運び屋をやっちゃう。

凍り付いた大きな川が アメリカとカナダの国境になってる。
その川を挟んで 両国にまたがってモホーク族の保有地になってるから
保有地独自の法を利用して カナダに着いた密入国者をアメリカ側に運ぶ。
車のトランクに密入国者を入れて 凍った川を車で横断する。

地元の警察官がさりげなく警告に来るけど、
お金が揃うまではやるしかない。

で、結局掴まるはめに陥る。

モホーク族の女性はシングルマザーで、1歳の赤ん坊を義母に取られたまま。
子供には勿論会いたいけど、女性を運び屋に巻き込んじゃったし
女性が自分の子供達の為に必死なのもわかってるから
罪を自分で負って 女性を逃がそうとする。
女性は逃げ出すんだけど、凍った川の手前まで来て引き返し、
モホーク女性に子供を託し、自分が刑務所に入る決意をする。
自分だったら前科がないから 多分4ヶ月くらいの刑期で済むだろう。

凍った川の手前で躊躇した女性の心情は ラストシーンでより明らかになる。

15歳の息子は生活苦の為に ケチな振り込め詐欺をついやっちゃう。
で、結局バレて 警察官が家に来る。
警察官は乱暴な事をしたりはしない。
パトカーで被害者の老女を連れて来ていて、
老女に謝るよう、少年に静かに促す。
少年は素直に謝罪し、老女も穏やかに受け入れる。

凍った川は舞台のひとつであると同時に 人の心のメタファーでもある。
生活に困り果てた人が違法な事につい手を出してしまったのを
世間はキツく糾弾しはしない。
でも、いい気になって続ければ、それはただの犯罪者だから
いつかは厳しく取り締まるしかなくなる。
人の道を外れるわずかな手前で引き返して欲しい。

凍った川は二度三度なら渡れる。
でも、道を踏み外せば 氷の薄い所に来てしまって 川に落ち命を無くす。
もう一回なら大丈夫と思ってる時が もう危険なんだ。

中年女性も 息子も モホーク女性も 自分の心の中の良心の岸を見つめ、
凍った川の手前で引き返す事ができた。
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