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マンガ家Mの日常
ティム・バートン監督作品。
実話を元に、ポップアートに捧げるアイロニー。


1958年のアメリカは保守的家長制度に縛られていて、
家庭に入った女性は夫の言うなりだった。
夫のパワハラ?に耐えかねたマーガレットは幼い娘を連れて家を出る。
美術の勉強をしていた腕を生かして、家具の絵付けの仕事を得るが、
シングルマザーでは子育てに相応しくないとして、
夫から養育権請求の訴えを起こされる。
公園で似顔絵描きをしている時に知り合ったウォルターと親しくなり、
訴えをきっかけに結婚を申し込まれ、幸福な家庭生活を手に入れる。
ウォルターもまた画家を志していたが、現実は不動産の仕事で生計を立てていた。

ウォルターはパリの風景を描いた絵を売り込もうとするが、画廊からは門前払い。
一計を案じ、ジャズバーの壁を展示用に貸してもらう。
オーナーとの喧嘩が新聞に取り上げられ、興味本位で見に来る客が増え、
瞬く間に絵が売れていくが、
売れたのはマーガレットが描いた、目の大きな子供達の絵ばかりだった。
ウォルターは思わず、「ビッグ・アイズ」の作者は自分だと言ってしまう。

女性画家は相手にされない時代だった。
ウォルターの思惑は見事的中し、「ビッグ・アイズ」は飛ぶように売れていく。
しかし、ウォルターが名声を手にする一方で、
マーガレットはアトリエにこもりきりで制作に従事させられる。
秘密を守る為に友人さえも家に招くことが許さず、孤独に陥っていく。

絵のポスターやカード等の販売を展開して大当たりして、
僅か3、4年で瞬く間に巨万の富を築き、豪邸を建てる。
世界中から賞賛される中で、「タイムズ」の編集長だけは
「ビッグ・アイズ」を低俗だと喝破する。
ウォルターは酷評に激怒し、暴力的になる。
マーガレットはウォルターから逃げて、娘とともにハワイに移住する。

ウォルターは離婚を受け入れる代わりに、
絵の権利と、もう100枚の制作を要求する。
一度は了承したマーガレットだったが、
ハワイで知り合ったエホバの証人の人達に勇気づけられ、
地元のラジオ番組で、絵の作者は自分だと明かす。
ウォルターと新聞社を相手に裁判になるが、
法廷で絵を描いて見せる事で、マーガレットが作者である事を証明し、勝利する。

マーガレットはその後も絵を描き続けたが、
ウォルターは1枚たりとも発表する事なくこの世を去った。


ウォルターを演じたクリストフ・ヴァルツは、ティム・バートン作品という事で
ややカリカチュアライズされた名演技を見せ、目が離せない。
嘘つきで調子の良さだけが取り柄のプレイボーイが金と名声に取り憑かれ、
虚栄心の権化となる様が、とてつもなくえげつなくて、見ていて嫌悪を催す。
控えめなエイミー・アダムズも美しいが、
クリストフ・ヴァルツの独壇場となっている。

映画には幾つかの皮肉が交錯している。

マーガレットは男尊女卑教育に感化されて、人前で満足に意見も言えない。
ウォルターは画家に憧れを抱き続けているが、才能は皆無で、
自作として売っていた風景画でさえ、どうやら他人の作品らしい。
芸術への欲求の強さに反して才能が無い不幸。
「ビッグ・アイズ」を自作だと言い張るに従って、
自らもそう信じ切ってしまっているかのような姿も恐ろしい。

女性の絵は売れないのもその時代の真実で、
ウォルターの策略が働かなければ、
マーガレットもまた画家としての成功は無かっただろう。

蛇足だけど、
マーガレットは引っ込み思案で人と話すのも上手くない方だったから、
表に出る仕事は夫に任せて、制作に集中していられるのはある意味幸せだったかも。
でも、富や名声が欲しいとまでは言わなくても、
作品が他人の策だと言われるのは物凄く悔しい。
夫がもっと上手にケアしてればと思わなくもないけど、
やっぱりいずれは破綻してたんだろうね。

鋭い審美眼の持ち主である「タイムズ」編集長は
「ビッグ・アイズ」に何らの芸術性も認めない。
それでも世界的に売れたのは、ウォルターが思わず口にしたように、
大衆は低俗な物を求めているから。
ポップアートは芸術ではなく、コマーシャリズムでしか無い。
ここまで自作を低俗と罵られて、マーガレットはどう反論しただろうか。


ネットで検索すると、
映画の中で使用された絵は、作風を模して、
別の画家によって新しく描き起こされた物だそうです。
ふむふむ、成る程ね。納得。

人物画を描く人、特にマンガ家なら気付く事ですが、
マーガレットが右利きであるのに反して、
映画の中の幾つかの「ビッグ・アイズ」の女の子の顔が、
左利きで描かれたと思われるから。
私も含めて、右利きだと左向きの顔が描き易く、
向かって左側のフェイスラインがやや立ち気味になり、
向かって右側のフェイスラインはやや横流れ気味になって、非対称の顔になる。
普段はそうならないようなるべく調整してるけどね。
作品の中の幾つかにそういう傾向が見られたの。
また、ポージングや、背景のバランスも同様で、利き手の癖が見える。

違う目線で見るとまた面白いでしょ。
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