話題のミステリー、昨年末衝動買い。
とにかく何か読みたかった。
完全にネタバレします。
これから小説を読もうとされる方、
本国フランスで製作中の映画の公開を待たれる方、
お気をつけ下さい。
この手の海外物ミステリーの購入に関しては、
数年前までなら児玉清氏のレヴューを参考にして決められたんだけど、
児玉氏亡き後は明確な判断基準が見つからない。
映画でもそうなんだけど、識者の宣伝文句なんて、
ただ仕事で書かされてるだけのようなものだから、
大仰な褒め言葉が並ぶばかりであてにならない。
なので、結局、何かの有名な賞を獲ったってのを目安にしてしまう情けなさ。
大外れは無いけど、期待程では無いってことも多い。
思い込みでアメリカの作品だと思ってたんだけど、フランスの作品。
冒頭人物設定で分かりにくい部分があって、どうしてかなと思ったら、
どうやらシリーズ第2作らしい。
第1作目は日本語未訳。
2作目でブレークしたんで、宣伝しやすいってんでこっちを先に出版したんだろう。
「ダ・ヴィンチ・コード」も2作目で、小説は順番通りに出版されたけど、
映画は本来1作目である「天使と悪魔」が後回しにされた。
主人公のヴェルーヴェン警部の妻が殺害されたのが第1作だったらしい。
作中で分かりやすく説明してあるので、そこんとこは問題無いけど、
やっぱり、先に読ませてもらわないと、感情移入出来ないよね。
物語は、深夜、女性が誘拐されたらしい、という曖昧な目撃情報から始まる。
警察がわずかな手がかりから調べを進めていくが、
1週間経っても行方不明の届け出も無く、女性の身元が分からない。
女性は残忍なやり方で監禁されていた。
警察が犯人を追い詰め、監禁場所を探し当てた時には
女性はすでに自力で脱出していた。
すると直後から、その女性によって連続殺人が繰り広げられる。
監禁状態が第1部で、連続殺人が第2部、そして第3部で女性の正体が明かされる。
事件の設定等については特に目新しいことは無いようだけど、
3部構成で、全く別種のような1部と2部が繋がっていくのは目を引く。
監禁された女性アレックスには、
少女時代に異父兄とその知人達に度重なる性的虐待を受け、
挙句に殺されかけ、応急処置で助かったものの、体には大きな障害が残った、
という衝撃的な過去があった。
大人の女性になってから、虐待した者達に復讐を開始していた、
かつて自分が受けたのと同じような仕打ちを施して。
第1部で監禁されてしまったのは、復讐相手の父親による報復だった。
倒置法的な構成。
本来の殺人犯であるアレックスと、アレックスを殺そうとするもう一人の犯人、
という二段構えで、警察にはまず先に第2に犯人の方を追わせる。
アレックスは第1部の前に既に2、3件の復讐を済ませており、
脱出後の第2部で残りの復讐を成し遂げる。
そして突然の自殺。
強靭な意志で監禁から脱出したのは、復讐を完遂させるという強い思いからだった。
なので、自殺はちょっと腑に落ちない気もする。
自殺を異父兄による他殺に見せかけて、異父兄の過去の犯罪行為を警察に調べさせ、
公の裁きの場に引きずり出すのが最終的な目的だった。
ヴェルーヴェン警部達もアレックスの遺志を汲み取り、敢えて騙されてやる。
異父兄を過去の虐待の罪では裁けないので、殺人犯として罰する。
ただ、これで公判が維持出来るのか、そこんとこはちょっと気になる。
フランスの裁判制度がどういうものかは知らないけど。
そして、やっぱり、アレックスには生き残る道を選んで欲しかったように思う。
「ミレニアム」のリスベットは生き残った。
女性の立場から見て、余計にそう願うのかもしれない。
今作でアレックスが自殺の形をとったのは、
復讐とは言え、数人を殺害したという呵責からか?
それよりも、作品のトリッキーな構成を生かそうという
作者の狙いが優先されているように感じられてしまう。
異父兄の虐待の過去を警察に暴いてもらい、さらに重い罪で裁きを受けさせる、
そういう復讐の仕方もあるのだろうけど、
果たして警察がそこまでちゃんと出来るのかどうかはアレックスには分からない。
また、もしそれを狙っての事だったら、
敢えて何かの手がかりを残しはしなかったのか?
異父兄にしても、大した人物とは見受けられないので、
今のアレックスならその気になれば、何らかの方法で殺せた筈。
半分ながら血の繋がりがあるから肉親の情が邪魔する、とも思えない。
サッサと始末して国外に逃げても良かった。
例えば、障害の影響があって、余命が限られてるとか、
何か近い死に直面した状況なんだったらわかるんだけど。
まさか私、どっか読み飛ばしたって事あるのかな?
復讐の過程で、アレックスは偽名を使い続ける。
でも、異父兄以外の復讐を終え、正体を隠す必要が無くなった時、
ヒッチハイクさせてくれた女性に名前を聞かれて本名を名乗る。
アレックスの人生にとっては重要な一瞬だった。
映画ならね、この場面をラストに持ってくる、海外へ向かう飛行機の中で、とか。
ありがちだけど、やっぱり感動する。
アレックスの場合、殺す相手は復讐のターゲットに限定されているのだから、
復讐が終われば社会的脅威とはなり得ないので、
作者にはアレックスを生かす道をもっと検討して欲しかった。
そう出来るトリックを考案して欲しかった。