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マンガ家Mの日常
「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督、脚本の
絵画ミステリー映画。
個人的にはとても好きなジャンルです、はい。


ヴァージルはマエストロと称される国際的一流美術鑑定士。
オークショニアとしても活躍している。
世界中の美術館やオークションハウスから仕事の依頼が引きも切らない。
美しい女性の肖像画の収集が趣味で、友人の画家ビリーと組んで、
鑑定士、オークショニアといった自身の立場を利用して、
名画を上手く手に入れている。

クレアという若い女性から、屋敷の家具や美術品の競売を依頼される。
しかしクレア本人は姿を現そうとしない。
ヴァージルは最初不快に感じるものの、次第にクレアに興味を惹かれるようになる。
クレアは広場恐怖症で、屋敷の中の一室に籠りきりの毎日だった。
物陰に隠れ、クレアの姿を見る。
ヴァージルは若く美しいクレアに夢中になっていく。

屋敷の調度品のカタログ作りが進む中、二人は距離を縮め、恋愛関係になっていく。
ある夜、屋敷の前の道路で暴漢に襲われ倒れたヴァージルを窓から見て、
助ける為にクレアは意を決して屋敷の外に足を踏み出す。
ヴァージルは愛情を確信し、広場恐怖症を克服したクレアと自分の邸で同居を始め、
秘蔵の肖像画コレクションも披露する。

しかし、全てが詐欺の手口だった。
仕事を終えたヴァージルが意気揚々と恋人クレアの待つ我が家に戻ると、
クレアの姿は無く、肖像画コレクションも全て消えていた。
ヴァージルから画家として評価されずに芽を潰され、
長年ヴァージルに上から目線でいいように使われていたビリーが
復讐心から、用意周到に仕組んだと思われる。

ヴァージルはショックで療養生活に入る。
いくらか体力を回復させて、クレアが語った思い出の場所を訪れる。


見終わって、一言。
ばぁーか、ばぁーか、若い女が年寄りに近づくのは財産目当てなんだよっ!

映画の中でヴァージルの年齢ははっきりとは分からないけど、
白髪染めをして老いを隠そうともがいている。
ヴァージルを演じたジェフリー・ラッシュは60代前半だけど、
もっと老けて見える。
一方、クレアは27歳という設定。娘どころか孫にも近い年齢。
クレアは広場恐怖症で人と直接接触出来ない。
ヴァージルは孤児院育ちで修道女に囲まれて育ち、芸術に人生を捧げて来た。
女性と付き合うのは人生初らしい。
そういう二人だから年齢に関係無く恋愛関係に入れたという事なんだろうけど、
それでもねぇ、
気づけよ、おっさん! いや、おじい!

倒れたヴァージルを救いにクレアが屋敷を飛び出すシーンでは、
臭い純愛ものっぽいなぁと思ってたんで、詐欺の手口と分かった時はホッとした。
そんなつまんない設定に引っかかるのは、色ボケ中のヴァージルだけだ。

友人と思って心を開いていた優秀な機械職人ロバートもグルだった。
若くてモテモテのロバートにヴァージルは恋愛相談をしていた。
しかし、それでまたいいように感情を操られてしまっていたのだった。

映画としては、若い女に走った金持ちジジイが財産を巻き上げられるという話。
映像や音楽もクールで格調高く美しく、引き込まれる。

なんだけど、ちょこちょこ引っかかりはあるかな。

映画を見終わった後の感じがイマイチすっきりとしない。
これが詐欺なんだろうというメタファーはあちこちに散りばめられていて、
脚本は素晴らしいのだけど、
果たして、全人生を費やして収集した肖像画を全て奪われる程
ヴァージルは悪人なのか?

コレクションを見せられた時のクレアの台詞が冴えていて、
肖像画の女性達はヴァージルがクレアに辿り着くまでの過去の恋人だったと。
どうなんだろ?
原題は「The Best Offer」、直訳すれば「最高の申し出」。
偏屈なおじいが一瞬でも若く美しい女性と恋に落ち、肉体関係まで結んだ、
それを人生最良の出来事として、名画群と引き換えに出来ると思えるか?
まぁ〜、無理だね。
大体、クレアがそこまでの美女ではない。
それに偏屈なおじいでも、ヴァージル程の超一流鑑定士であれば、
資産家や有名人との付き合いも多く、
特に美術に造詣の深い名家の女性から誘いを受ける事はいくらでもあり得る。

あのオートマタは本物なのか?
部品が段階的に屋敷のあちこちに置かれてあったのは、
ヴァージルがロバートの元に通うようにさせる為だったのかな?
だとしても、ヴァージルは何故それを不思議に思わなかったのだろう。
屋敷にいるクレアがやったのか、聞かなかったのかな。

ヴァージルの競売詐欺?の相棒で売れない画家のビリーは
若い頃から名声を博していたヴァージルが自分の絵画の後押しをしてくれず、
その為に画壇で名声を得る機会を失ったとして恨んでいるのだけど、
今回の詐欺の為に描いた絵も、ヴァージルはビリーの作と知らずに
価値の低い作品だと即座に切り捨てた。
誰かを恨んだところで、才能無かったもんは仕方ないんだよ、ビリー。
逆恨みだよ。
三流画家が一流鑑定士を逆恨みって、見苦しいよ。

で、絵画ファンとしては、絵を盗んだ後についても考えてしまう。
ヴァージルは警察に行きかけるが、クレアとの思い出が大事で、告発を断念。
そんなもんかなぁ〜?

で、問題は絵の行き先なんだけど、
名画になればなる程、売買は困難になる。
まともな買い手は来歴が怪しいものには手を付けない。
肖像画はどれもそう大きくはないので、
盗品と知りつつ秘匿する為に購入するコレクターもいるかとは思う。
でも、そうなると買い手は限られるだろうし、買い叩かれる。
となると、ビリーは今回の詐欺の為の資金やロバート達への謝礼金等、
出費が大きい割に金銭的見返りは期待出来ない。
そこんとこ、どうなんだろうなぁと思う。
まぁね、競売詐欺でビリーも儲けさせてもらってたから、お金じゃないのかな。
復讐心が主なのかな。

ヴァージルが収集していた肖像画の中には世界的名画も含まれていて、
それは美術館にあるから個人蔵は無理だよ、と思ったんだけど、
映画として美を追求する上で、美女の肖像画をセレクトしたんだろう。
ヴァージルのコレクションではないけど、
ブグローの「ヴィーナスの誕生」はオルセー美術館にある。

映画のラストをどう読み取るかは、個人の判断になるだろうか。
訪れたカフェは店内全体が歯車で装飾されている。
オートマタと、療養施設での回転する治療器具の中に収まるヴァージルの姿と、
歯車だらけのカフェで取り残されたように佇むヴァージルの姿がシンクロする。
機械の中の歯車の一つとして操られていた。
或いは、時の中にひとり置き去りにされたのか。

クレアの正体は明かされなくて、でも、贋作の中に潜む真作の比喩から、
クレアの過去の話が真実だったかのように感じられて、ちょっと気を引かれる。
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