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マンガ家Mの日常
日中、電話のゴタゴタで仕事が手に付かず、
何となくうっとおしい気持ちを引きずってしまったので、
明るい映画を見る事にする。
他にも面白そうな映画の録画が溜まってるだけど、今日は明るいヤツが良い。

世界的に有名になった歌手ポール・ポッツの自伝的映画。

ウェールズの海辺の町で生まれ育ったポールは、幼い頃からオペラ一筋。
ポッチャリおデブで、タチの悪い同級生からいじめられっぱなしだし、
製鉄所で働くマッチョな父親は、オペラに理解を示さず、
息子に常に否定的な言葉をぶつける。

町のケータイ販売店で働くようになり、
メル友のG.F.とも出会って付き合いだした。
そこそこ上手くはいってるが、いまひとつパッとしない人生。
販売店の店主のブラドンやG.F.のジュルズの後押しがあって、
町のタレントコンテストで賞金を稼ぎ、ベニスの音楽学校に留学する。

オペラのレッスンを受け、才能を開花させようとしている。
ところが、いざ本物のパヴァロッティを前にして独唱する栄誉に恵まれると、
緊張して歌えなくなり、
幼い頃からの憧れだったパヴァロッティから「オペラ歌手は無理。」と
烙印を押されてしまう。

自信喪失してウェールズに帰郷。
父親の手引きで製鉄所に勤めさせられるが、嫌で職場放棄してしまう。
ジュルズとの仲も壊れかけるが、何とか信頼を取り戻し、結婚。
仕事は元のケータイ販売店に戻る。
町の聖歌隊の教師の推薦で、小さなコンサートでオペラの主役に抜擢される。
順調に人生を取り戻しつつあると思われた矢先、
盲腸の手術でオペラの舞台で倒れ、更には甲状腺の病気で一時期声を失う。
そこから何とか立ち直りかけると、交通事故で全身打撲と骨折で療養生活。
ジュルズが仕事を掛け持ちして家計を支えるが、借金が膨らむばかり。
ちょっと上手く行きかけると災難に見舞われる、ついてない人生。

浮き沈みを繰り返していた或る日、TVのアマチュアタレントコンテストの
参加者募集広告をPCで見て、応募する。
直前で弱気の虫がぶり返すが、ジュルズの支えがあって、見事に歌い上げる。
コンテストで優勝し、ソロアルバムを出して世界的大ヒット、
ロイヤル・アルバート・ホールで女王陛下の前で歌う栄誉に浴する。
めでたしめでたし。


必ずしも恵まれた環境に生まれ育った訳では無いけれど、
オペラへの情熱を失わずにいた。
ジュルズや店長等、良き理解者にも巡り会えた。
一方で、何かにつけて息子を挫けさせる父親が、
ポール自身の自己肯定感や評価を下げて、弱気を作り出してしまった。
いじめっ子達にやられた事を知らせても、父親はポールが悪いと言わんばかり。
実の親が子供の人生を砕く。
自分自身のあれこれを思い出して、泣けて来そうになった。

ポール・ポッツの成功を見て、誰に対しても
「頑張れば道は開ける。」と言ってしまう事は無責任だろう。
世の中そんなに甘く無い。
秘めた才能を持つ者はごく僅か。
それでもやはり、頑張った人が成功をつかむ人生応援歌は嬉しくなる。

サポートしてくれと、甘える事までは言わないが、
せめて、志を挫くのは控えて欲しいと願う。

経済的理由や、一人息子だった事もあってか、
ポールは実家暮らしが長かったし、結婚後も地元で暮らしていた。
その為、ずっと父親の心理的支配下にあった。
そこからもっと早くに抜け出せていれば、
自己肯定のタイミングがもっと早まったかもしれないとも思う。

私はマンガを描きたかったので、親元を逃げ出した。
実家にずっといたら、両親からのプレッシャーで何も描けなくなっていただろう。
親不孝もしたし、一人暮らしで辛い思いもした。
でも大学時代に、親離れは人間形成に欠かせない事だと感じていたし、
やりたい事をやらずに人生を過ごして、チャレンジしなかった事を後悔して、
それを親のせいにする事はしないと、心の中で明確にしていた。

それでも挫けっぱなしではあるけどね。

話が前後するけれど、
ベニスの運河の光景が美しい。 実際は悪臭が漂うらしいけど。
まだ行った事が無いので、いずれ何としてでも行かねばと思う。
ミラノとセットで。
人生が尽きる前に、
レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を見に行かなければならないから。

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