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マンガ家Mの日常
お正月なので、ハリウッドっぽい映画を見る。

でも、そうでもなかったかな。

ミスター・ハリウッド、ジョージ・クルーニー製作、監督、脚本、主演。
力が入り過ぎたと言うよりも、
準備不足のまま撮影されてしまったような。


第2次大戦下、ナチスドイツが全欧州で略奪した大量の美術品が、
ヒトラーの死後、ネロ指令で多くが破壊焼却の危機にあった。
ハーバード大学附属美術館長ストークスは連合軍に美術品の危機を訴え、
専門家チームを編成し、大戦終盤の欧州に向かう。
人命が失われている戦時下では、政府や軍の将校達は美術品奪還に関心を示さない。

チームは欧州各地を回って美術品の行方を突き止め、保護して、
分かる限り元の持ち主に返却する。
任務の途中で落命するメンバーもいた。
ナチス占領下のパリで、美術館職員として働くクレールからの情報を受け、
主要な美術品の隠し場所を突き止め、
ソ連軍が占領に来る前に無事移動させる。
奪還に成功した美術品の中には、ミケランジェロの初期の聖母子像や、
ファン・アイクの「ゲントの祭壇画」といった人類の至宝も含まれていた。


原題は「The Monuments Men」、直訳すると「歴史的遺産兵士」。
兵士の身分ではあるけど、任務は歴史的遺産の奪還に特化している。
史実であるナチスの略奪美術品奪還作戦を元に書かれた原作があって、その映画化。
登場人物は実際の人物の名前を変える等して脚色されている。

以前から時々書いている通り、拙作「ポー・ド・ルルスの娘」で
ナチスの略奪美術品に関連した話を描いた事もあって。
個人的に、このテーマについてはとても関心が強い。
それだけに、今作がやや不出来なのが非常に残念。
映画が良い仕上がりで世界的にヒットしたら、
世間の人達に美術品についてもっと関心を持ってもらえたのに、
せっかくの機会が生かされなかった。

何と言うか、脚本の詰めが甘過ぎる。
人類の遺産である美術品を救出する意義と、戦争で失われていく若者達の命の尊さ。
テーマとしては分かり易く提示されてはいるけれど、
演出が全く不足していて、心の奥に迫って来るものが無い。
冒頭でストークスが、政府や軍のお偉方の説得に当たった際、
文化財が戦後も人々に与える影響等について語るが、
映画ならば、それをエピソードで見せる工夫があってしかるべき。

また、話の中心軸も絞りきれておらず、
あまりにも多くの要素を詰め込もうとして散漫になってしまっている。

ジョージ・クルーニー始め、マット・デイモン、ケイト・ブランシェット、
ビル・マーレイ、ジョン・グッドマン、ジャン・デュジャルダンといった
名だたるスターが出演している豪華作品になる筈だったのに、
本当に勿体無い。

映画のイントロではファン・アイクの「ゲントの祭壇画」が
修道士達によって運び出される場面が描かれている。
絵画芸術にとって最重要に位置する作品なのだけど、日本での知名度が低いからか、
邦題はミケランジェロに集約されてしまった。

ヒトラーが自分の死後、「ネロ指令」と称して、
美術品を破壊焼却してしまうよう指令を出していた身勝手さと傲慢さ。
その指令を実行してしまう一部の将校と兵士達の思慮の無さ。

ケヴィン・コスナーの「ダンス・ウィズ・ウルブス」のラストを思い出した。
主人公がインディアンの部族について書き留めた、
重要な歴史的資料となり得るノートを、
文盲の兵士達が嘲笑いながら破り捨てていく、その愚かさと悲しさ。
美術品を焼却した将校や兵士達には、美術品の価値を読み解く知識が皆無だった。

美術というのが、ただ見るだけで済まされる物でありながら、
実は非常に高度な芸術であるという事と、
人類の心の深淵に触れる学習や訓練が、いかに疎かにされているかを示している。
それは、現代に至っても大きく改善されたとは言い難い。

ひとつ付け加える。
欧米各地にある美術品も、主要作品の多くは各時代の戦闘による略奪品である。
それらについても一部は返還の取り組みがなされているが、解決は難しい。


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