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マンガ家Mの日常
家庭内での幼児虐待が頻繁に報道される中、
親子のあり方について考えさせられる映画。


6歳の少女ムーニーは、シングルマザーのヘイリーと2人で
フロリダのディズニー・ワールドの近くの安モーテル
「マジック・キャッスル」に滞在している。
クラブのダンサーをクビになったヘイリーは無職で金が無く、
宿代の支払いも遅れがち。
同じモーテルに住むウエイトレスのアシュリーと友達になり、
ダイナーの裏口でワッフルをタダで分けて貰ったり、
食糧支援の配給を受けたりしている。

活発なムーニーはアシュリーの息子スクーティや、ジャンシーといった
同年代の子供達と悪戯三昧。

モーテルの支配人ボビーは、時折しかめ面で苦言を呈しながらも、
貧しい住人達に心優しく気を配っている。

ある日ムーニー達は悪戯半分で廃屋に火を点け、火事を起こしてしまう。
アシュリーは子供達の仕業に気付き、
スクーティをムーニーと遊ばせないようにすると、
ヘイリーとの友情も崩壊してしまう。

ヘイリーは偽ブランドの香水を観光客に売りつけて稼いでいたが、
警備員に見つかり、断念。
他に収入の道が無く、ネット広告を出して売春を始める。
懐が潤ったのも束の間、売春がバレて、
児童家庭局の職員が警察官と共にムーニーを保護しに来る。
諦めるしかないヘイリー。
ジャンシーは泣きながら友達に別れを告げるムーニーの手を取り、
2人でディズニー・ワールドに駆けて行く。


ムーニーを演じたブルックリン・プリンス、天才!!!
ハリウッドは昔から子役の扱いが上手いとされていたけれど、
セリフのトーン、笑い声、自由な動き、どれを取っても、
ムーニーの自然な演技は大人の名優達のテクニックを超越している。
何故アカデミー主演女優賞を授与されていないのか。
ラストの泣きのアップでは、どういった演技を見せるか注視していたが、
大人では考えようも無い方式で魅了する。

ムーニーの母親ヘイリーは、髪を緑に染め、身体中にタトゥーがあり、
いかにもだらしないプアホワイトの若者に見える。
その日暮らしで、まともな職業に就く事が出来ず、考えもつかず、
偽ブランド香水の押し売りから売春と向かった時点で、
一見自由そうな暮らしの崩壊は明らか。
娘をバスルームに閉じ込めて客を取るなんて、全く褒められた事では無い。
でも、見ていて、だから何だって思う。
一般社会の価値基準で売春行為を攻め立てるよりも、
ヘイリーは娘との暮らしを支える為に精一杯の事をやっている。
こんなにも愛情深い母親に育てられたムーニーが母親と引き離されるなんて、
何かが間違っている。

子供達はまだ幼くて、現実が見えていない。
だからこそ、配給の食パンとジャムが最高のご馳走として味わえるし、
ディズニー・ワールドに入れなくても、
安モーテルの建物全体や近所の廃屋がお城のような遊び場になる。
現実を知る一歩手前の年齢だからこその魔法なのかもしれないね。
パープルのペンキで塗られたモーテルや、
フロリダの観光地独特の華やかな色合いの建物が、
現実と魔法の狭間を象徴するかのよう。

「フロリダ・プロジェクト」とは、元はディズニー・ワールドの
建築計画の名称だったとか。
また、「プロジェクト」は、低所得者層住宅を意味するらしい。
ここはモーテルなので、厳密には違うけど、
ヘイリーのように、住宅さえ借りられない、
夢の国から弾き出された不遇の人達の拠り所となっている。

月額を考えると、
部屋を借りて家賃を支払った方が良いんじゃないかと思うんだけど、
借りる為には頭金とか保証人とか、色々な条件をクリアしなければならなくて、
ヘイリーにはそれが叶わない。
どういう事情があったのか。親やムーニーの父親とも別れ、
1人でムーニーを育てている。
きっと遠くない将来、幸せに暮らせると信じたい。

ラストシーン、ジャンシーがムーニーの手を引っ張って、
2人でディズニー・ワールドの中に駆け行って、そこで映画は終わり。
当然すぐに保護されてしまうんだろうけど、
現実としての未知の将来の何処かに、夢があると思いたいという感じだろうか。
このラストには人によって様々な解釈があるようだけど、
個人的には「禁じられた遊び」のラストを連想した。

子供達が遊びまわる、何気ない日常の風景の中に、
実に多くのメッセージが込められている。
語り出すと止まらない映画。
名作。
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