上映時間が９２分と短く、タイトルからエスプリの効いたコメディ映画を期待して、
サラッと見られるかなと思ったけど、そうはいかなかった。


長年真面目に働いて来た会社をリストラされて失業。
再就職の訓練コースを受けるも、経験者優遇で就職出来ず。
住宅ローンの支払いに追われ、家を手放す事も考えるが、
買い手が無茶な値切りをして来て、交渉決裂。
家には妻と、障害のある息子がいる。

もう、ブルーメスを作るしかない！

...って、ゴメンナサイ、「Breaking Bad」ネタでした。

ティエリーはブルーメスを作る事はせず、
就職面接の講習会で散々に言われつつ、
以前よりは給料は下がるけど、何とかスーパーの警備係として就職。
日々のささやかな楽しみは、妻とダンスの練習に通う事。

警備室でひたすらモニターを見つめて、万引き犯を探す毎日。
単純な不良青年だけならまだしも、
肉のパックを盗んだ老人を警察に引き渡さなければならなかったり、
クーポン券をちょろまかしたレジ係の女性がクビにされて店内で自殺したり、
客が必要としなかったのポイントを自分のカードに移したレジ係を摘発したり、
生活に困窮した人達を相手に、鬱々とした仕事を続ける。

試用期間も終了して、生活費のめどは立ったが、心は晴れない。


見ているこっちが憂鬱になる。
フランスの中流家庭の現実。
ティエリーがどこまでも我慢を重ねて、不平を言わず、黙々と働く姿に
胸に迫るものがある。
ドキュメンタリータッチを意識した画面作りで、
ティエリー始め、登場人物の後ろ姿や横顔が多く映し出され、
台詞の言外の気持ちを伝えている。

フィクションならば、主人公がどこかで爆発して、現状を打破するか、破滅するか、
いずれかの動きがあるものだけど、そうはせず、淡々と日常を突き進む。
ティエリーは愚かな男では無いから。
家の売買交渉ではさすがに無茶な値切りに抵抗して声を荒げたが、
それも懸命な判断だった。

少しの安心と少しの不安を抱えて人は日々の営みを続ける。