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マンガ家Mの日常
これから暫くの間、ずっと前に録画していた映画を引っ張り出して見る事になる。

プログラムの紹介文は短いから、
映画のイメージを正確に掴めない事もしばしばだけど、
それさえもすっかり忘却の彼方で、
今作も、思っていたのと大分違った。


ミズーリ州の山間地、17歳の少女リーは、
精神を病んだ母親と、12歳の弟と6歳の妹の世話をしながら暮らしている。
父親ジェサップは、麻薬製造で逮捕され、稼ぎ手のいない家は生活困窮。
保釈されたジェサップが行方不明となり、裁判に間に合わなければ、
高額の保釈補償金のカタに、家と土地を奪われてしまう。
リーは親戚縁者にジェサップの行方を尋ね始めた。

しかし、多くは口を噤み、それでも追求し続けるリーは邪魔者扱いされて、
親族の女性達にボコボコにされてしまう。
ジェサップは逮捕された時、司法取引をして
一族のファミリービジネスと言える麻薬製造業について、警察にチクった。
その為、保釈後、裏切り者として殺害されたらしい。
保釈補償金の不足分を一族の誰かが肩代わりしたらしいが、
それも、殺害目的で保釈させたのかもしれない。

今までのジェサップの所業から、リーは殺害もやむなしと受け入れる。
死んでいる事を証明出来れば、保釈補償金は没収されずに済む。

リーをボコった女性達もリーの境遇に哀れみを感じて、
ジェサップの死体が沈んでいる湖までリーを案内し、両腕を切り取り、
死体の証明として警察に持って行かせる。
家と土地は守られ、
保釈補償金の一部として誰かが収めたお金を受け取れる事になった。


ジェニファー・ローレンスの出世作。
数々の映画祭で賞を独占。
ちょっとぽってりした頬が、田舎風味を感じさせてくれる。

言葉での説明を最小限に抑えているだけに、
鑑賞後、数々のシーンについて語りたくなる。

田舎者を指す言葉として、ヒルビリーという単語には聞き覚えがあったけど、
正確なところは知らなかった。
スコットランドからの移植者で、小さな村に一族で住み着き、
近親交配に近い状況もあったらしい。
昨今言われるプアホワイトとはまた違う状況なんだろうか。

それにしても、車が移動手段という事を除けば、
村の様子は開拓時代と大差無い。
巨大なアメリカの発展から取り残されている。
一族独自の習慣や掟に縛られた生活。
そういう背景を知らないでいると、今作は理解出来ない。

リーをボコったのが、男性達ではなく、女性達だった。
通常だったら、リーを懲らしめるのに男性がレイプするのでは、とは考えたが、
ネットで他の方のブログを見ると、
レイプされないよう、女性達が敢えて先にボコったと思われるとあった。
成る程。
その後、父親の死体の在処に連れて行ってくれるシーンと結び付く。
タフな女性達だけど、力ではやはり男性達に敵わない。
横の繋がりを密にして、女性同士での助け合いを心得ている。

「ウィンターズ・ボーン」というタイトルについて、
ジェサップの腕が切り取られた時に、それを象徴していると分かった。
ネットでは更に丁寧に観察されていて、
リーの伯父が生活費の為に森の木を切るよう進言していたが、
代わりに父親の腕を切り落とす事で生活を救ったのだと。
色々奥深い。

暫く家を空けなければならなくなるかもしれないと考えたリーが、
弟に銃の扱いや、リスの肉の捌き方を教えるシーンが印象に残る。
17歳の少女が、12歳の少年に銃の扱いを教えるなんて、全く別世界。
でも、それがこの地域で生きる為の作業の一つ。

時代に取り残された空間で、独自の掟に縛られて生きていくしかない人々。
ごめんなさい、羨ましいとは全く思えない。
でも、生きる為の根源的逞しさがヒシヒシと伝わる。

凍えるように冷たくて寂しげな村の空気が、
映画終了の時には、澄んだ爽やかさが混じって感じられた。



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