ナンシー・ケリガン襲撃事件で悪名を馳せた、元フィギュアスケート選手、
トーニャ・ハーディングの伝記映画。


幼い頃からフィギュアスケートに夢中になったトーニャを、
母親のラヴォナは一流の選手に育てようと、
ウェイトレスの給料を注ぎ込んで、コーチを付ける。
父親は離婚して家を出ていった。

トーニャは類まれな運動神経を持ち、才能を発揮する一方で、
クラシカルな美しさに欠ける演技の評価は低かった。
ラヴォナの厳しくて粗雑な育て方も、トーニャを粗暴にした。
スケートの練習の為、高校を中退させられた。
近所の同級生ジェフと結婚するが、ジェフにも度々暴力を振るわれていた。

トリプルアクセルを武器に、１９９２年アルベールビル五輪の代表の座を掴む。
しかし、五輪が近づくにつれてコンディションを崩し、４位に沈み、
メダル獲得を逃した。
素行の悪さと五輪の結果から、スポンサーは離れ、
トーニャはウェイトレスとして働く日々だったが、
冬季五輪の開催年が２年後にずらされた事から、復帰の道が拓ける。

ライバルとされていたナンシー・ケリガンを蹴落とそうと、
トーニャの知人がナンシーの足を殴打。

１９９４年リレハンメル五輪に出場するが、
この時もコンディションを崩し、成績不振に終わる。
その後、ナンシー殴打事件の関係者として処分される。


主要な関係者のインタビューから構成されたとの但し書き付きの作品で、
真実と異なる部分もあるかもしれない。
スポーツ映画と言うより、
プアホワイトの家庭の悲劇を綴った作品として見られる。

トーニャはフィギュアスケートの類稀な才能と情熱を持ち、
２度の五輪に出場した名選手。
本来なら、もっと名声を手にしても良い筈なのだけど、
素行の悪さからズルズルと転落してしまう。
もちろん、本人の生まれ持った性格もあるのかもしれないけれど、
暴力的な環境に足を引っ張られてしまった面も見過ごせない。

ZZトップのロック音楽を演技に使用したり、
果敢にトリプルアクセルに挑戦する姿勢に、個性と才能を感じさせられる。
自分で衣装を縫っている姿も好ましい。

主演のマーゴット・ロビーは、顔立ちは似てはいないけれど、
体型や、どっかりと腰掛けた時の足の開き具合等、
トーニャのズベ公感を安定感を持って演じている。
マーゴット自身のスケートにCGとプロスケーターの力を借りて作り上げられた、
迫力あるスケートシーンは必見。

子供時代、フィギュアスケート選手は綺麗な格好をするよう求められ、
他の子のように毛皮のコートを着させられるんだけど、
それが、父親が森で狩って来たリスの毛皮を剥いで自作した物だったりする。
幼いトーニャが、嬉しさと、周囲のきつい目線を気にしながら着て歩く姿に、
家族の姿を感じる。
子供時代を演じたのは「gifted/ギフテッド」の名子役マッケンナ・グレイス。

「ナンシーは１回殴られただけ。私は何万回も殴られている。」
このセリフに全てが込められている。