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マンガ家Mの日常
立ち寄った書店で、
英米二大ミステリー賞・受賞作!CWAゴールド・ダガー賞MWAエドガー賞
の宣伝文句につられて購入。

上海在住の英国人?中国近現代史専門家ポール・フレンチのノンフィクション。
300ページ程度の本で、さして厚くは無いんだけど、
小説のような情緒的な記述や会話はほぼ無くて、
出来事や歴史の解説が淡々と綴られているので、
中身が濃くて、読むのがやや骨だった。

1937年1月、日本軍占領下の北京の外国人居留地で
英国人少女パメラ・ワーナーの惨殺体が発見された。
英国と中国の警察が共同で捜査するが、戦時下の諸事情に阻まれ未解決のまま終了。
納得のいかない元英国領事だった老養父が独自で探偵を雇い再捜査して、
事件の真相解明に近づいた。
著者のポール・フレンチは数十年経った現在、資料を見直し、本作を書き上げた。

遺体の顔が判別出来ない程に傷付けられていたり、内臓を切り取られていたりと、
陰惨極まりない事件だったが、戦時下ともあって、
たった一人の少女の死が歴史に記される事は無かった。

養父母や少女の複雑な生い立ち、北京の闇社会の裏事情等、
詳細に描かれていて興味深い。
70歳を過ぎた養父が残りの人生全てを捧げたかのような執念の捜査は鬼気迫る。
占領下で、闇社会や中国警察を恐れて英国捜査官に証言を拒んでいた人々が、
いざ戦争が本格化して不況になって財政が厳しくなったら、
報奨金目当てで養父に事実を進んで語り出すというのも、なかなか皮肉だった。

不安定な少女期を過ごしたパメラは、一見大人しくて目立たないようでもあったが、
寄宿学校では問題児だったり、BFとの付き合いも積極的だったりしていた。
寄宿学校の校長から性的虐待を受け、北京から離れて英国へ帰る事になった直前、
知り合いの歯科医達のパーティーに誘われ、
気晴らしがてら大人の気分を味わおうと参加したところ、
当の歯科医を含む複数の男性に暴行され、抵抗して、殺されてしまった。
男性達は殺人をもみ消すべく、少女の遺体を外に運び出し、切り刻んだ。

養父が丹念に調べ上げた結果、北京在住の外国人達の繋がりが見えて来て、
事件の流れが明らかにされたが、既に終了した事件として、
英国の警察が養父の訴えを取り上げてくれる事はついに無かった。


フィクションとしては「刑事フォイル」でも、
戦時下の複雑な社会背景の下での殺人事件捜査が描かれていて
ミステリー物の視点として興味深いジャンル。
佐藤賢一の「王妃の離婚」も同じく。
しかし、まぁ、設定の前に膨大な歴史の知識が必要になっちゃうね。
おや、考えてみればキアラちゃんもそうなんだけど、
正直なところ、時代考証を追及されると困っちゃうよ。


先頃、中国の建国式典のパレード等で、
中国国民党の蒋介石の名前が頻繁に上がったのが記憶に新しい。
本書で袁世凱や張学良の名前を見せられると、
中学高校のおぼろげな歴史の授業の風景がちらほらと蘇って来た。
不勉強を恥じる。

日本軍の蛮行についての記述もあり、
必ずしも正確な資料に基づいてはいなかったとしても、
そうした事がなされていたという事実については目を背ける訳にはいかない。


ただ、ふと思ってしまったのだけど...、
中国の方に対する非常なる失礼を承知で書くと、
もしこの時代に、日本が中国共産党を壊滅まで追い込んでいたら、その後の
数十万人が殺害されたと言われる文化大革命の粛清や、天安門事件、情報規制等、
非人道的な事柄の多くはあり得ず、
開かれた民主的国家としての中国があったかもしれない。

何とも複雑な心境。
アメリカの人達が「戦争終結の為に原爆投下は有効だった。」って言うのと
同じような理論なんだろうけど。
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