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マンガ家Mの日常
昨日、水島新司先生が引退発表をされて、偉業について改めて思いを巡らせた。


子供の頃、実家で、弟が「ドカベン」のコミックスを買っていた。
私ほどマンガにのめり込んではいなかったが、
お気に入りのマンガはコミックスを買い集めていて、一緒に読ませてもらっていた。

或る日、母が何気に「ドカベン」を読み始め、気に入ったらしく、
発行されている分、一気に買い揃えてくれた。
母の大人買いに、私としては超ラッキーだったが、
弟は「お小遣いで少しずつ買い揃えるのを楽しみにしていたのに。」と、
少し悔しそうにしていた。
母はその後「あぶさん」も買い揃えてくれた。

医師である母は、全面的にアカデミックな人で、
当然子供達がマンガに熱中するのを嫌がっていたが、
思春期に差し掛かった子供達とのコミュニケーションを取る糸口として、
「ドカベン」を手にしてみたそうだった。
そうしたところ、思いの外面白く読めたようで、大人買いに発展した。
母はそれからTVのプロ野球中継もよく見るようになり、
「週刊ベースボールマガジン」も購読し、
大和球士氏のプロ野球史の著作も読んでいた。


それ以前に、私は、自分のマンガ好きを理解してもらう為に、
当時の最高峰と言っても過言では無い、
手塚治虫先生の「ブラック・ジャック」や萩尾望都先生の「ポーの一族」
と言った作品を、母にも読んでもらえないか勧めてみたのだけど、
「話が暗い。」と言って、受け付けてもらえなかった。


水島新司先生のマンガは、野球に特化した作品群で、
少年マンガらしいエンターテインメントで、
勝負の面白さや、仲間同士の友情といった要素が主軸として描かれている。
しかし、子供の目線に媚びる事なく、
人情の機微を描き、知的要素にも富んでいる。
当時、多くの少年マンガで、アンケートの人気取りの為に、
ヒロインのシャワーシーンが意味なく挿入されたりしていたが、
そのような手口にも頼らず、読者の支持を得た。

老若男女に幅広く受け入れられる、正攻法のマンガが、
現在果たしてどれだけあるだろうか。
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