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マンガ家Mの日常
「その女 アレックス」でスターダムを駆け上がった
ピエール・ルメートルの歴史小説。
読了。


第一次世界大戦末期、
終戦を予感して、兵士達は帰郷の念を強くしていた。
戦功を上げようと目論んでいたプラデル中尉は、
斥候に出した兵士を撃ち殺し、敵軍がやったように兵士に思わせて、敵意を煽り、
最後の戦闘に駆り立てた。

兵士の死体を見て不審に思ったアルベールだったが、プラデルに気付かれ、
戦闘の最中、穴に生き埋めにされかける。
同じ隊のエドゥアールによって救出されたが、
エドゥアールは直後の爆撃によって重傷を負う。

間も無く終戦を迎えるが、
爆撃で下顎を失ったエドゥアールは、病床で痛みを抑える為にモルヒネを常用。
アルベールは命を救われた恩義から、どこまでも献身的に尽くしていた。

エドゥアールはパリの大富豪の長男だが、
権威主義の父親は、エドゥアールの画才や性癖を疎ましく思っていて、
幼い頃から尊厳を無視されて、反抗的になっていたエドゥアールは、
別の身分を得て生きる道を望んだ。
アルベールはエドゥアールの死を偽装し、パリで共同生活をするが、
身分詐称の為、エドゥアールの帰還傷病兵の恩給も届かず、
罪に問われやしないかと怯える羽目に陥ってしまった。
アルベールは元の銀行に復職出来ず、満足な職も無く、
エドゥアールのモルヒネ調達に大金が必要で、困窮する一方。
更には、詐称に気づいたプラデルの脅しにも怯える。

大尉として帰還したプラデルは、
戦死した兵士の遺体を埋葬し直す国家事業を請け負い、悪どく儲けを狙う。
偶然もあって、エドゥアールの姉マドレーヌと結婚していた。

エドゥアールは、画才を発揮して、戦没者記念碑像制作のカタログを作成し、
アルベールにも手伝わせて、各地に頒布し、予約金をだまし取る詐欺を始める。

プラデルの悪事は露見し、大富豪の義父ペリクールにとりなしを請うが、
元からプラデルが気に食わなかったペリクールは内心では既に見捨てている。
マドレーヌは、浮気を繰り返す夫プラデルに愛想をつかしており、
プラデルの美貌を受け継いだであろう子供を授かった事で満足で、
プラデルがどうなろうと意にも介さない。

プラデルはペリクールに取り入ろうと、記念碑詐欺の調査をするが、
アルベールは大金を持って、恋人のポーリーヌを連れて国外逃亡を果たす。
エドゥアールは身体の不調と麻薬中毒で、既に死を覚悟していて、
高級ホテルで豪遊した後、父ペリクールが運転して来た車の前に飛び出し、
自ら人生を締めくくった。


20世紀初頭の第一次世界大戦はまだ白兵戦が主流で、
多くの若者が命を落とし、あるいは障害を抱えて帰還し、苦しい生活をしいられた。
そんな中、一部の者は戦争を地位や財産を得るのに利用し、肥え太った。
それが戦争の実態。救われない。

ルメートルは文章が巧みで、読者を引き込む。
でも、やっぱり、ミステリーの方が好きかな。
ミステリーって、進行状況や到達目標がはっきりしてるから、
論理的思考タイプ向き。

悪事に奔走しながらも、自ら破滅を招く男性達に対して、
与えられた状況でガッシリと大地に踏ん張り、生き抜く女性達の姿が対照的。
雑草のように踏みつけにされる弱者の女性達こそが、強く生き残る術を知っている。
権力に対する、ルメートルのささやかな抵抗なのかな。

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