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マンガ家Mの日常
先日の「ボクらの時代」で、
渡辺えり氏が主宰する劇団の状況について触れていた。
コロナの3密を避ける為、少ない人数の俳優で上演する。
お客を呼ぶには、必然的に、有名俳優の2人芝居とかになり、
その他大勢の出番がなくなる。
そうなると、若手が舞台経験を積む場が減って、成長の機会が失われる。


ふと思うと、マンガ雑誌も同じ状況。
コロナの遥か以前からだけど。


「鬼滅の刃」が空前の大ヒットを記録している。
それは、素晴らしい事なんだけど、
特定の作品だけに読者や観客が集中してしまうと、
他の多くの作品が顧みられない現象に繋がる。
「鬼滅の刃」を読んで、マンガの面白さに気づいて、
もっと他の作家の他の作品も読んでみよう、
...とは、何故かならない。
メジャーなマンガの消費者心理なんだろうか。

雑誌が次々廃刊になり、出版社もデジタル配信にシフトしている。
作品発表の場があるのはありがたい事なんだけど、
どうしても、雑誌とは違う。
雑誌では、様々な作品が多数掲載されていて、読み比べる中で、
読者も、マンガ家も、鍛えられていく。
単独になるデジタル配信では、それが無い。

どのような状況であれ、強者が生き残り、弱者は消える。

それはそれで真理なんだけど、
雑誌が消えて、デジタル配信化が進むと、
マンガ作品の性質みたいなものが変わっていくだろう。
カルト的、マニアックな作品で、突出した物だけに読者が集中する。
この数年でビッグヒットとなった作品群に、既にその傾向が見られる。


マンガ家全体の生き残りは、厳しさを増すだろう。
過渡期には大きな浮き沈みが伴う。


雑誌の活況を再び取り戻せるような企画が立てられれば良いのだけど、
マンガの編集部がこの先どこまで進化出来るのか?
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10年程前のハーレクインコミックスのブームが既に下火になり、
海外に販路を求めた取り組み。
それはひとつのビジネスのスタイルではあるけれど、
日本で下火になったものが、果たして海外でそんなに需要があるだろうか。
ビジネスとしての弱点が見える。

何故下火になったかは明白。
早い段階で、良い原作が描き尽くされてしまったから。
ペーパーバックのビジネスモデルは、日本のマンガにおいては限界がある。

良い原作。
それに尽きる。

女性主体のラブロマンスに焦点を絞っても、
「アウトランダー」や、TVドラマでも、名作、大ヒット作は必ずある。
ラブロマンスの世界が飽きられたわけでは決して無い。
やはり、読者の目に耐え得る、質の高い企画、原作を提示する事。

残念ながら、ハーレクイン編集部には、その余力が無い。
「ハーレクイン」に限定せず、
もっと広い間口で、良い原作を求める事は出来なかったんだろうか。

本当に良い原作であれば、マンガ家としても、苦労は厭わない。
仮に、原稿料が安く抑えられ、初版の発行部数が少なかったとしても、
本当に良い作品は、後々まで高く評価され、それなりの収益をもたらす。
他社の例で、ハヤカワでは、そういうロングセラーを主軸としている。


本当に魅力的な原作であれば、
仕事が辛いとも思わなかっただろう。
ハーレクインに限らないけど。

インドネシアや韓国で、ハーレクインコミックスがデジタル配信されるようになり、
現地の基準に合わせた画面修正が入り、その報告をいただいた。

海外配信は嬉しいけど、
現地のマネージメント会社や翻訳会社に収益の大半を持って行かれるので、
我々マンガ家にはほぼ収益が見込めない。
0だと思っているくらいが妥当。
なので、気持ちは盛り上がらない。
今はハーレクインタイプのマンガを周知させる為の布石のような状況で、
遠い将来にはもう少し収益が見込めるようになるのかもしれないけど、
そうなる前に作品を配信されて使い切られるのは割りに合わない。
必死で描いた大事な作品を布石として踏みつけにされるのは勘弁。
どうせ収益0だとなると、余計に...。


ハーレクインの場合、大人の男女のベッドシーン等も多くあり、
国によって性表現の基準が異なるので、
何らかの画面修正は受け入れざるを得ない。

それは良いんだけど、

現地のマネージメント会社が仕切っていて、マンガ家に対しては全て事後報告。
されるがまま。
要はお金の問題で、いちいちマンガ家に対応してると、労力や経費がかかるから。
本来ならば、制作者であるマンガ家に、画面修正の権限があると思うので、
無断で修正されるのは納得がいかない。
何となく、気色悪い感じがまとわりつく。
海外配信当初はもっと酷い修正だったそうで、
ハーレクイン編集部から繰り返し要望を出して、徐々に改正されているらしい。
数年前に編集長職を継いだTさんが丁寧に説明して下さった。


「著作権者」と書こうとして、
「制作者」に改めた。
原作ものの場合、マンガ家だけで著作権者とはならず、
契約書を正確には覚えていないけど、ハーレクインのような会社の場合、
原作者やマンガ家よりも、会社が強い権限を押さえてたりするので、
マンガ家の立場は極めて弱くて、画面修正にも参加させてもらえない。
作品を自分自身でコントロールする事が出来ない状況を何度も経験すると、
原作ものから足が遠のく。
出版社にはもう少しマンガ家の権利を保護する事を検討してもらいたい。
...マンガ制作の果てしない労力を考えれば。

「きまぐれオレンジ☆ロード」で一世を風靡した、まつもと泉先生がご逝去された。

柳沢きみお先生の「翔んだカップル」に続く、少年誌における恋愛ドラマの代表格で、
当時、知らない男子はいなかったのではなかろうかという大ヒット作。
スポ根やバトルものが大勢を占める少年誌で、
少女誌にも通じる恋愛ドラマを読者に届け、感性を拡げる役割を担った功績は大きい。
その後、このジャンルは廃れてしまったようで、残念。

ご冥福をお祈りします。

この数ヶ月間、何に苦労しているかと言えば、

ひたすら片付け。諸々。

仕事場兼用として住んでいるので、とにかく仕事用の資料が増え続ける。
いつか役に立つかもしれないと思うと、捨てられない。
今時はネットで様々な資料が得られるので、
おそらくは捨てても問題無い物もあるのだけれど、
その選別にも時間と手間がかかってしようがない。

この10年、20年、忙しくしていた時期に、
目を瞑っていたツケが山の様に溜まってしまった。
アシスタントさんが来る時などには、
片付かない物はダンボール箱や紙袋にまとめて入れて、
とりあえず寝室に放り込んでいた。
それ以外にも、様々な本や資料の類がダンボール箱に収まったままでいる。

ところが、紙製品の宿命で、
丈夫なダンボール箱もやがては破損したり、カビや虫の餌食になる。

困るのは、原稿。
今のマンションに住み始めた頃には、
まだ原稿がどれくらい嵩張って来るかの見当も付いていなかったので、
出版社から戻って来た順に、空きスペースに収めていたけれど、
そんなこんなでは収まらなくなり、今ではあちこちに分散収納されている。
きちんと管理しなくてはと思う。

原稿自体が紙なので、保管には注意が必要なんだろうけど、
まだ手立てが見つかっていない。
保管に適したケースとかって、何が良いんだろう。

その前に、まとまった空きスペースを作らなければならない。
これが重労働になる事は簡単に予想がつく。
辛い。

そうやって、また、問題を先送りしてしまうんだろうか。