キリッと冴えたサスペンスを見ようと思ったのだけど、全然違った。
以前録画してほったらかしだったパターン。
喪失の物語。
N.Y.郊外の邸宅に暮らす裕福な夫婦ベッカとハウイーは、
8ヶ月前、不慮の事故で4歳の息子ダニーを亡くした。
その悲しみから抜け出せない。
子供を亡くした夫婦の状況が淡々と描かれる。
アメリカに限った光景では無く、おそらく世界中どこでも同じ。
前を向いて生活を続けなければならないのだけど、つい振り返ってしまう。
息子の遺品の整理にも躊躇する。
周囲の気遣いがうっとおしいが、気遣いが無ければそれもまた腹が立つ。
子供の成長の話を聞くと、悲しみがぶり返す。
息子のダニーは庭から逃げ出した飼い犬を追って道路に飛び出し、
高校生ジェイソンが運転する車にはねられた。
ジェイソンに過失は無いが、子供を死なせてしまった悔恨から車の運転を止めて、
高校にはスクールバスで通っている。
夫婦はジェイソンを恨む事も出来ない。
悲しみや怒りをぶつけられる対象があれば、また違った生活になるのだろうか。
ベッカが庭仕事をする場面からスタートしたので、
「ラビット・ホール」というタイトルは、不意に心に空いた穴を指すのだと
思っていたが、そうではなくて、
ジェイソンが描いていた自作のコミックのタイトルで、
縦横無尽に張り巡らされた穴とトンネルの向こうに、
数限りないパラレルワールドが存在していて、
そこでは違う現実、未来が展開している、というもの。
息子が死なずに、幸せに暮らしている世界も何処かにあるのだろうか。
まぁ、言っても、主演のニコール・キッドマンが相変わらず美しい。
陽の光に透ける大きな青い瞳、抜群のプロポーション。
夫のハウイーのバックボーンについてはほとんど描かれていないが、
ベッカの人生は特徴的。
暴力的な父親の下、裕福ではない生活を送ってきた。
長男アーサーは30歳の時に麻薬中毒で命を落とす。
次女のイジーはバーで酔って、いざこざを起こしては警察のご厄介になり、
ベッカに引き受けに来てもらう、ニートな生活。
おまけに、正体がビミョーなミュージシャンとできちゃって、妊娠。
母親ナットは、そんな家族をただ受け入れて見ているだけしか出来ない。
ナット役のダイアン・ウィーストはとにかく上手い!
微妙な表情で奥深い感情を見せる。
惨めだった生活から這い上がったベッカは、
結婚前はサザビーズで働く有能なキャリアウーマンで、
イケメン夫との裕福な生活も手に入れた、向上心の強い女性。
夫婦の性格付けによって、対処の仕方は違って来る事もあるのだろう。
貧乏で、子供が4、5人もいたら、一人亡くなっても、
残った子供の世話に忙殺されて悲しむ暇も無いかもしれない。
弛まぬ努力で完璧な生活を手に入れたが、一瞬で崩れてしまった。
ダニーは一人息子だったので、思い入れも強い。
うさぎが作ったトンネルの先に、別の世界はありはしないけれど、
夫婦はそれぞれ異なる過程を辿って、立ち直りに向かい、
二人の世界は融合する。