Sは関東の地方都市で生まれ育った。

父親は大工の棟梁で、祖父は宮大工としても名前を残した名人だったそうだ。
おそらく、幼少期は恵まれた環境だったと思われるが、
大工というマッチョな仕事柄か、
父親は愛人を作り、妻と２人の娘を残して家を出てしまった。
後年、仕事に窮し、成人した娘達に生活費の無心に来た事もあったとか。

母親は料理上手で良い人だったそうだが、交通事故で亡くなる。

姉は特段大きな問題は無いが、メジャーな新興宗教の信者となっている。

Sは高校卒業後、地元の銀行に就職するが、夢を追って上京。
希望の職種に就き、独学でキャリアアップして行った。

最初に就職した事務所で、今の夫と出会った。
長身で見栄えが良く、音楽の趣味も合って、親しくなって行ったが、
得てして、男性の方はなかなか結婚に踏み切れない。
他の女性の影もチラつき、Sは「結婚してくれないなら別れる。」と詰め寄り、
入籍に辿り着く。
家庭環境に不安のあったSは、結婚という居場所を求めた。

ところが、
Sがキャリアアップを重ね、給料も上がって行くと、
元は先輩だった筈の夫は遅れを取り、焦りと失望からか、仕事を辞めてしまう。
そこからニートなバイト生活が始まる。

Sは「子供は好きじゃ無いから要らない。」と言っていたが、
それはおそらく、本音半分、強がり半分で、
３０過ぎた夫がニートでは、子供は作れないだろう。
夫は後に警備会社に就職するが、
最早Sが思い描いていたであろう結婚生活ではなくなっていた。

（続く。）