フィリップは日本に対する強い憧れがあると同時に、強い嫌悪感も持っていた。
旅行で2度、数日間ずつ日本に来た事はあったけど、
それで日本の状況が全てわかる筈も無く、思い込みも多かったようには感じる。
特に、何年か前の映画「ライジング・サン」で描かれた「建前」について
強い嫌悪感を示していた。
映画はそれなりに良く出来た作品だったと思うけど、
所詮アメリカが描いた日本人像で、誇張もあるし、時代がやや古い。
うちの父は「建前」の多い人だったから、「建前」の弊害はわかる。
でも、今は企業もグローバル化して海外との交渉術も変化してきたし、
現役世代には「建前」の感覚はあまり無い。
それでも、確かに日本人の優柔不断さはしぶとく残っているのは認める。
曖昧な返事をする事の弊害もあって、外国人には尚の事理解しづらいだろう。
でも、その全てが否定されて良い筈も無く、
「建前」や「優柔不断さ」もあって、日本の美しい精神文化が成り立つのだ。
外国人が「武士道」や「芸者」等にばかり価値を重んじるのは
偏向があると言わざるを得ない。
アメリカ生活の長いフィリップは、常にキッパリした返事を要求して来た。
前日の朝、私は疲れているから休みたいと言っていたのに、
押し切られてテニスの練習に出た。
それについて、「何故はっきり断らなかった。君の決断だ。」と言われ、
食事が少しキツかった事についても、私の決断による責任だと言われた。
確かにそれは正論なのだろうけど、
強く押し切られると、それ以上は「もてなし」を断りづらい。
私だって、再三「疲れている、休みたい。」と言ったのに。
色々断ればフィリップが気を悪くするのも見て取れていた。
じゃあ、どうすれば良いの?
そのあたりから「建前論」への攻撃が始まった。
返事の曖昧さが重なれば、誤解が膨らんでいく、という説。
いや、それもわかるけど、言い切り方が極端なんだよ。
何でもかんでも白黒付けるんじゃなくて、
グレイゾーンに収める方が良い場合だって沢山ある。
加えて、決断の遅さについても攻撃された。
「世界は待ってくれないんだ。」と。
そりゃ、早いに越したことは無いんだろうけど、
熟考したり、後ろを振り返って反省し、やり直す、
そういう事だって 人生の大事な一部なんじゃないのかなぁ。
そうした反論だとか、日本人の精神性だとか、頑張って説明したけど、
日本人の特性なんて、日本語でだって説明が難しいし、
話があちこちへ展開して行くと、英語で説明しきれなくなってきた。
「仲直り」の話し合いじゃなかったの?
もうそろそろ勘弁して欲しい。
「英語で説明するのが難しい。」と言うと、
「英語は合っている、論理が間違っているのだ。」と切り返された。
(この事は前にも少し書いた通り。)
微妙なニュアンスを説明しきれていないのは 私自身が一番わかっているのに。
日本人の英語力の問題に触れると、フィリップは
「英語は簡単な言語だし、大勢の日本人が既に英語をちゃんと話せている。」
と言う。
確かに私が学生だった頃に比べれば、英語を話せる人は増えて来た。
でも、まだまだその割合は低いし、
英語教育は大きな問題として立ち塞がっている。
ビジネスの為に英語を習得する人も増えたけど、
必要の無い人だって大勢いる。
英語の習得が必要とされるのは全体の1割程度で、
長い時間を英語に費やすよりは、その分の時間を他の学業に向けた方が良い、
とされるケースも多くある、と唱える学識者もいる。
私がアメリカにU2のツアーで度々来ていても、
空港とホテルとコンサート会場を往復するだけだから 簡単な英語で事足りた。
U2の歌詞については、対訳を参考にすれば理解できる。
とにかく、日本語は英語とは構造がかけ離れているので、
同じ言語ルーツのヨーロッパ人が英語を習得するような具合にはいかない。
...そう説明しても、何故か、どうしても受け入れてくれなかった。
何で? 日本人の私が日本について説明してるんだよ?
それを聞き入れてくれないなら、もう説明のしようが無いじゃない。
外国人が日本に観光に来れば、ホテルのフロントマンは英語が通じるし、
それなりの施設であれば、英語の出来るスタッフを配置している。
でも、私のような日本人が海外で 日本語で対応してもらえる事はまず無い。
英会話に慣れて来ると同時に、頭の疲れも溜まって来る。
だんだんパニックになって来た。
説明はもう限界だった。
フィリップにとって、ジャン・アレジと後藤久美子のカップルが理想らしく、
以前にも後藤久美子の名前を挙げていた事があった。
「後藤久美子はちゃんと出来ているだろう。」と。
...後藤久美子を日本女性のロールモデルとされても困るよ!
それに彼女は若くして引退したから、外国語習得のお金も時間もあったろうし。
でも、私が何か説明しても、全部否定され、「言い訳だ。」と言われた。
追いつめられた感じになって、泣きながら説明したけど、
ひとつとして譲ってもらえなかった。
話し始めの時、「そんなに疲れてたのか、仕方ないなぁ。」って、
軽く受け流してくれていれば、何の事なく楽しく過ごせたのに。
時間が夜の7時に近づいた。
フィリップは食事に出ようと言って来た。
ダウンタウンのXmasのライティングが見られるというような事も言っていた。
その日私は朝から何も食べていなかったから、少し空腹感はあった。
でも、さんざん攻撃されて、食事が喉を通る気配もなくなっていた。
それに、これまでのアメリカ式の食事で胃が重かったから、
1日くらい食事を抜いて 胃を休ませてやる方が良いように思えた。
食事に出るか、出ないか、「決断」を迫られ、それならば
「行かない。」と答えた。 そうすると、
「それは間違っている。君は12時間以上食べてない。身体に良くない。」
と「正論」を言われた。
あなたが私に決めろって言ったんじゃないの!
もう、さっきからずっと 正論も屁理屈もゴッチャなんだよ!
泣く程頑張って色々説明してきたのに、何で一言許してくれないの?
どうしても白黒付けなきゃ気が済まないの?
ガールフレンド相手に 全部自分が勝たなきゃイヤなの?
フィリップは少し表情をこわばらせ、
「わからない。」と言ってゲストルームから出て行った。
旅行で2度、数日間ずつ日本に来た事はあったけど、
それで日本の状況が全てわかる筈も無く、思い込みも多かったようには感じる。
特に、何年か前の映画「ライジング・サン」で描かれた「建前」について
強い嫌悪感を示していた。
映画はそれなりに良く出来た作品だったと思うけど、
所詮アメリカが描いた日本人像で、誇張もあるし、時代がやや古い。
うちの父は「建前」の多い人だったから、「建前」の弊害はわかる。
でも、今は企業もグローバル化して海外との交渉術も変化してきたし、
現役世代には「建前」の感覚はあまり無い。
それでも、確かに日本人の優柔不断さはしぶとく残っているのは認める。
曖昧な返事をする事の弊害もあって、外国人には尚の事理解しづらいだろう。
でも、その全てが否定されて良い筈も無く、
「建前」や「優柔不断さ」もあって、日本の美しい精神文化が成り立つのだ。
外国人が「武士道」や「芸者」等にばかり価値を重んじるのは
偏向があると言わざるを得ない。
アメリカ生活の長いフィリップは、常にキッパリした返事を要求して来た。
前日の朝、私は疲れているから休みたいと言っていたのに、
押し切られてテニスの練習に出た。
それについて、「何故はっきり断らなかった。君の決断だ。」と言われ、
食事が少しキツかった事についても、私の決断による責任だと言われた。
確かにそれは正論なのだろうけど、
強く押し切られると、それ以上は「もてなし」を断りづらい。
私だって、再三「疲れている、休みたい。」と言ったのに。
色々断ればフィリップが気を悪くするのも見て取れていた。
じゃあ、どうすれば良いの?
そのあたりから「建前論」への攻撃が始まった。
返事の曖昧さが重なれば、誤解が膨らんでいく、という説。
いや、それもわかるけど、言い切り方が極端なんだよ。
何でもかんでも白黒付けるんじゃなくて、
グレイゾーンに収める方が良い場合だって沢山ある。
加えて、決断の遅さについても攻撃された。
「世界は待ってくれないんだ。」と。
そりゃ、早いに越したことは無いんだろうけど、
熟考したり、後ろを振り返って反省し、やり直す、
そういう事だって 人生の大事な一部なんじゃないのかなぁ。
そうした反論だとか、日本人の精神性だとか、頑張って説明したけど、
日本人の特性なんて、日本語でだって説明が難しいし、
話があちこちへ展開して行くと、英語で説明しきれなくなってきた。
「仲直り」の話し合いじゃなかったの?
もうそろそろ勘弁して欲しい。
「英語で説明するのが難しい。」と言うと、
「英語は合っている、論理が間違っているのだ。」と切り返された。
(この事は前にも少し書いた通り。)
微妙なニュアンスを説明しきれていないのは 私自身が一番わかっているのに。
日本人の英語力の問題に触れると、フィリップは
「英語は簡単な言語だし、大勢の日本人が既に英語をちゃんと話せている。」
と言う。
確かに私が学生だった頃に比べれば、英語を話せる人は増えて来た。
でも、まだまだその割合は低いし、
英語教育は大きな問題として立ち塞がっている。
ビジネスの為に英語を習得する人も増えたけど、
必要の無い人だって大勢いる。
英語の習得が必要とされるのは全体の1割程度で、
長い時間を英語に費やすよりは、その分の時間を他の学業に向けた方が良い、
とされるケースも多くある、と唱える学識者もいる。
私がアメリカにU2のツアーで度々来ていても、
空港とホテルとコンサート会場を往復するだけだから 簡単な英語で事足りた。
U2の歌詞については、対訳を参考にすれば理解できる。
とにかく、日本語は英語とは構造がかけ離れているので、
同じ言語ルーツのヨーロッパ人が英語を習得するような具合にはいかない。
...そう説明しても、何故か、どうしても受け入れてくれなかった。
何で? 日本人の私が日本について説明してるんだよ?
それを聞き入れてくれないなら、もう説明のしようが無いじゃない。
外国人が日本に観光に来れば、ホテルのフロントマンは英語が通じるし、
それなりの施設であれば、英語の出来るスタッフを配置している。
でも、私のような日本人が海外で 日本語で対応してもらえる事はまず無い。
英会話に慣れて来ると同時に、頭の疲れも溜まって来る。
だんだんパニックになって来た。
説明はもう限界だった。
フィリップにとって、ジャン・アレジと後藤久美子のカップルが理想らしく、
以前にも後藤久美子の名前を挙げていた事があった。
「後藤久美子はちゃんと出来ているだろう。」と。
...後藤久美子を日本女性のロールモデルとされても困るよ!
それに彼女は若くして引退したから、外国語習得のお金も時間もあったろうし。
でも、私が何か説明しても、全部否定され、「言い訳だ。」と言われた。
追いつめられた感じになって、泣きながら説明したけど、
ひとつとして譲ってもらえなかった。
話し始めの時、「そんなに疲れてたのか、仕方ないなぁ。」って、
軽く受け流してくれていれば、何の事なく楽しく過ごせたのに。
時間が夜の7時に近づいた。
フィリップは食事に出ようと言って来た。
ダウンタウンのXmasのライティングが見られるというような事も言っていた。
その日私は朝から何も食べていなかったから、少し空腹感はあった。
でも、さんざん攻撃されて、食事が喉を通る気配もなくなっていた。
それに、これまでのアメリカ式の食事で胃が重かったから、
1日くらい食事を抜いて 胃を休ませてやる方が良いように思えた。
食事に出るか、出ないか、「決断」を迫られ、それならば
「行かない。」と答えた。 そうすると、
「それは間違っている。君は12時間以上食べてない。身体に良くない。」
と「正論」を言われた。
あなたが私に決めろって言ったんじゃないの!
もう、さっきからずっと 正論も屁理屈もゴッチャなんだよ!
泣く程頑張って色々説明してきたのに、何で一言許してくれないの?
どうしても白黒付けなきゃ気が済まないの?
ガールフレンド相手に 全部自分が勝たなきゃイヤなの?
フィリップは少し表情をこわばらせ、
「わからない。」と言ってゲストルームから出て行った。
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