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マンガ家Mの日常
未来から来たロボットが少年を救う物語。

少年は心奥に焦燥を抱えていた。
自意識の膨らみに苛まれながらも、未発達な自己にはなす術も無い。

或る日の深夜、うつうつと寝付かれずにいると、
ガラス窓をカツカツと小さく叩く音が聞こえる。
窓を数センチ開けると、しなやかな肢体の猫がするりと入り込んで来た。
猫は長閑にひとつ欠伸をすると、少年の傍らで眠りにつき、
そのまま家に居座ってしまった。

猫は一見上等な毛並みをしていたものの、耳に大きな傷があった。
飼われていた家で虐待され、逃げ出して来たのだろうか。
前の飼い主が探しているかもしれない。
そうしたら猫を返すべきなのだが、何日待っても
行方不明の猫を探しているといったような張り紙ひとつなく、
飼い主の手がかりは皆無だった。
ゴロゴロと喉を鳴らして足下にまとわりつかれると、
始めうっとおしかったものが、次第に生活の一部となり、
猫に語りかけては気を紛らわせるのが 日課となっていった。

相手が例え猫であれ、打ち解けて話す対象が出来た事が
少年の精神面に潤いをもたらせたのか、少年は鬱屈した心持ちから解放され、
伸びやかさを取り戻し、日常の輝きを身体に受け入れ始めた。
落ち込みがちだった勉強も、集中できるようになり、成績が上がった。
それとともに活動的になり、友人やガールフレンドもできた。

少年を取り巻く世界は美しい球体のように 完璧だった。

或る日、少年はガールフレンドの静香ちゃんの家に遊びに行くと、
部屋の片隅に 耳の欠けた猫がうずくまって寝ているのに気付いた。

(続く)
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